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美しき尼僧伝説(3)

 
...................................................- Rena エピソードT-
 

星空 いき

Hosizora Iki












 
....<本文中緑色の部分は、読み飛ばしてもスト−リーに
....影響ありません。興味のない方は飛ばしてください>


.......................................コード資料....称号と範囲


..宙吊りテントの中でレイカは煩悶していた。
..1858年4月8日(安政5年2月)、グジョウゲ(郡上界)の池の近く白樺林の中にテントを張った。テントは、宙吊り式だ。木の枝にロープを渡し、テントはそれに吊り下がっている。1mほど浮かせ、揺れないように木々の幹にロープで固定した。どのロープも小型空気シリンダーと連結しているので揺れは吸収される。明日の未明には震度6以上の地震に襲われる。資料に当たったが、ここらの被害程度は全く分からなかった。が、再現シュミレーションで詳細に検討した結果命の危険に巻き込まれることはないと判断した。
..到着すると直ぐに補助定点の検査をした。「正常」だ。明日昼頃にもう一度検査し「異常」ならハードの故障でソフトの故障ではない。修理の対応ができる。その準備はしてきた。泊まらないでもう一度出直すかどうか、かなり悩んだ。が、山道を登り降りするのはできれば避けたい。結局1泊を選んだ。
..レイカを苦しめているのは、街や野良で見かけた人々だ。彼らは陽気に話し笑い、日常を営んでいた。12時間後に全てを破壊する暴力が襲ってくるなど誰も考えていない。路上でケンケンに興じていた子どもたち、そのうち何人かは苦痛のうちに死んでいくことになる。住む家はなくなり、火事だって起こるだろう。阿鼻叫喚の地獄が始まろうとしている。もし、いま避難させてやれば少なくとも命は助かる。だが…
..教えることはできない。
..みすみす数百の命を見捨てなければならない。レイカは首に提げた小袋を取り出す。それを両手でぎゅっと握る。<これは過去なのだ。現実ではない。昔話しの世界だ。現実ではない…>何度も何度も自分に言い聞かせる。その小袋は、祖父が「いつか先導士になったら、これが守ってくれる」と子どもの頃にくれた物だ。以来転送時には身につけている。ずっと以前には<超科学者の祖父が「お守り」なんて…>と思ったものだったが、いつのころからか<祖父はわかっていたのだ>と思うようになっていた。
..波が寄せては引いていくように、少しうとうとしては目覚める。何度もそれを繰り返した気がする。何度目か分からないが、ぼんやりした意識の奥で鳥の鳴き騒ぐ声を聞いた。まだ暗い。猿が木々をざわつかせてきぃきぃと移動する気配がする。熊だろうか獣の吼える声がする。真夜中だというのに山が落ち着かない。ほんの少し空が白けてきた。多くの鳥たちがばさばさと羽音を立てて舞い上がった。そして、いきなり視野が歪んだ。床が突き上げられる。雷が落ちたような轟音が空気を震動する。そしてそれから長い時間揺さぶられ続けた。ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、…。
..レイカはテントの中に吊るしたロープにしがみついていた。テントは空気シリンダーのお陰でゆわんゆわんとゆっくり上下していた。実際には1分くらいだったろうか、もう何十分も続いているように感じた。ようやく揺れがおさまって外へ出て見るとすっかり明るくなっていた。鳥の声はない。熊か鹿あるいは猿の声が時折り響く。周囲には特にこれといった変化はなかった。<まだ行動を起こすのは危険だろうか?>ネコダ(藁の背嚢)を背にするとレイカは慎重に行動を開始した。心なしか、まだ地面は震動の名残で小刻みに疼いているような気がする。
..「たちいるべからず 勘定奉行・代官所」の立て札は倒れていた。そして庵も倒壊していた。土蔵はそのまま立っている。板壁などが剥がれ落ちているが、やはり堅牢な作りだった。錠をはずし重い扉を開けて中へ踏み込む。西暦1000年に作られてから恐らく誰一人入った者はないはずだ。中には古い空気が淀んでいた。
..いつ余震があるかわからない。レイカは作業を急いだ。機能チェックをすると、「異常」がずらっと並んだ。機能回復ソフトを起動すると、モニターに修復中のファイル名が次つぎに流れていき、一旦停止した。
.......部品交換が必要です。
.......ref-100568
.......bcb-107063
.......U
..レイカはケースからチップを選びだすと差し替えた。<故障箇所は想定の範囲内だった>一安心できた。部品交換を終え再度機能チェックをする。今度は「正常」が並んだ。<やれやれ…>機関本部にアクセスを試みた。修理完了の報告をすると、「機能点検を開始します。暫く待機してください」の返事だ。待つ間、外へ出て風景を眺めていた。曇ってきている。<雨になるの?ここから転送できれば、歩いて帰らなくても済むのに…>恐らく帰りの山道は崖崩れ・土砂崩れが起きているだろう。さらにそこを辿っている内に強い余震がくるかもしれない。その上雨に降られたらたまったものではない。だが、この転送補助定点の供用開始は来年の予定だ。3分ほどしてレイカはモニターに戻った。「機能点検完了。正常です」と出ている。
..レイカは決意した。ここからの転送許可を申請するメールを送る。非常に危険な状況を訴えた。少し経って「待機せよ」の返事だ。レイカは察した。最高会に諮るのだ、と。<時間がかかりそうね…>最高会議を開き結論が出るまで、どんなに早くても2時間はかかるだろう。とりあえず錠をして、テントに戻った。テントを畳むとソフトボールくらいになる。ロープ・シリンダーなど一式全部で1kg無い。ネコダに押し込み身支度を終えたころ、ぽつりぽつりと降り始めた。黒いヤッケのような物を取り出して着用する。非常に薄くて軽いのだが保温性がよく、全身をくるめばそのまま野宿も可能だ。さらにナイフで切り裂こうとしても刃を通さないうえ、強い衝撃が加わるとその部分が硬化するので護身用にもなる。菅笠を取ると白手拭いの頭にフードを被った。
..潅木の陰から立ち上がったとき、すぐ近くで「ぎゃ!」と叫び声があがった。見ると、農夫が腰砕けに倒れこみながら驚きの目でレイカを見つめている。背にした炭俵で平衡を失い、へなへなと崩れていった。
レイカ:だいじょうぶですか?
..レイカは駆け寄り、荷に手をかけて起き上がる手助けをした。おそらく炭窯に炭を取りに行っていた所を地震に襲われ、帰る途中だったのだろう。農夫はよほど驚いたのか手が震え、立ち上がっても口をきくことができなかった。大慌てで、命乞いをするように合掌すると、何かを喚きながら飛ぶように逃げ去った。<ちょっと油断したなー。まさか、こんな時に人がいると思わないもん。驚かせて悪いことしちゃったわ、ごめんね>
..土蔵に戻る。まだ返信はない。レイカは空腹を感じた。入り口に腰を下ろし、食料パックを取り出した。念のため2パックを用意してきた。ひとつのパックに常温用と加温用が入っている。加温用はヒモがついていて、引いて3分ほど待つと食べごろに加熱される。食事を摂りながら<この高原が破壊されなくてよかった>と、あらためて周囲を眺めた。ちょうど食事が終わる頃にPruruとメールが届いた。「本部への転送は却下。非常事態につきT市への空間移動を一度に限り許可する」だった。<助かったー!>実は、許可されないと覚悟していた。あの頑固なボダイたちの顔が目に浮かぶ。供用開始前の設備の使用を許すとは思えなかった。きっと誰か、強力に支持してくれたボダイがいたのだろう。レイカはボダイEを想った。
..但し、転送には条件が付いていた。「当該機器のテストは未完了。転送の実績なし。よって事故の起こる確率17%。事故による生命等の毀損についてはアクセス者の責務とする」レイカは深呼吸した。今から山道を下って、生命の危機に会う確立はどれくらいか?どう考えても17%より遥かに高いと思われる。レイカは決断した。<こうなれば、早いに超したことはない>急いで戸締りをして、転送のアクセスを実行した。


..コイトは喫茶店のウィンドゥ越しに外の風景に目をやっている。文字通り目をやっているだけで、眺めていないのはその表情から知られる。眉を寄せ真剣に考え事をしているらしい。ベンチャー企業の社長とアポイントを取る電話をいれたところ、会社近くのこの喫茶店を指定された。その社長が最後の調査対象者だ。コイトは3日間で5人の聞き取り調査を終えていた。都議会議員、医学部教授、弁護士、隠居した金持ち老人などさまざまだ。ノニカ(野中)は、彼等に斉藤の時と全く同じ手を使っていた。特に議員は1泊を2回行っていたし、銀行役員と隠居老人は2泊のコースを選んだ。だれも被害者意識はなかった。それどころか「もう一度頼みたいがどうすれば良いか?」と熱心に尋ねるのが殆どだ。ただ1名、「飲んだ時つい知り合いに話してしまった。そして、催眠術で騙されたんだとバカにされた」者もいた。
..コイトは時間を確かめる。まだ会見まで間がある。立ち上がると入り口脇のピンク電話に向かった。T市の民宿に掛ける。ノニカは、行き倒れているところを夢子の家族に発見された。直ぐに救急車でT市の病院へ搬送された。以後夢子がノニカに付き添い世話をしている。そこまでを聞いていた。<その後どうなったか?>しばらく待たされた後で、「二人とも外出している」と民宿の主人が答えた。<ケータイが無いのは、不便なものだ>一人ぼやいて席に戻る。ドアーのチャイムが鳴ったので目を上げると若いビジネスマンが入って来た。その視線が店内をさまよった。コイトと目が会うと笑顔で近寄ってくる。コイトも立ち上がった。簡単に挨拶を交わすと、社長は前田と名乗った。コイトが想像していたより若い。30代前半か。企業間の仲介の仕事だと言う。スーツは高級品だし、腕時計も半端な値段じゃなさそうだ。
前田:中小企業の縁を取り持つ仲人みたいなもんです。
..と快活に笑った。
..コイトは、野中(ノニカ)が行方不明だという事、前田との間でどんな取引があったのか知りたい旨を伝えた。今までの調査でも、みな「行方不明」に関心を持つ。前田も不思議そうな顔をした。そこへ「何か心当たりがないか?」と訊くと相手は必ず考えてくれる。その後の話しに入り易くなるのだ。このパターンで、コイトはやってきた。
前田:いや、実はですね。
..一通りコイトの質問に答えた後に続けた。
前田:何度も連絡を取ろうとしたんだけど、会社はいつの間にか消えてるし…解散したのかなと諦めたところなんです。
..恐らくノニカは事務代行業でも使ったのだろう、とコイトは思った。
コイト:ええ、旅行社は解散いたしました。
..コイトは苦しい言い訳をする。
コイト:もしかして、また旅行をご希望で?
前田:そうじゃなくて…諦めきれないんです。本音を言いましょう。いま現在旅行業はどこも業績が振るいません、大手でさえも。で、わたしの知っている小さな旅行社なんですが、ユニークな企画で徐々に実績をあげています。その社長の発想が若いんですね。従来の、旅行といえば温泉に入ってあとはドンチャン騒ぎというパターンを破ろうとしてがんばっています。それで、野中さんの会社も、失礼ながら小さいようですので「時間をお返しできる旅行」をその会社と手を組んで販売すれば、必ずや大ヒットする、と考えました。 野中(ノニカ)さんの話しに乗ったのは、実はそんな下心があったからです。
コイト:そーでしたか…
前田:ですから、わたしはかなりシビアに観察していました。どんな仕掛けがあるのか、と。でも、行った先は確かに間違いなく本物でしたし、時間も消費されませんでした。それで、これこそビッグビジネスになる!と確信したのです。野中さんが見つかったらぜひご連絡いただけませんか。実に惜しいですよ、もったいないです。あの人は巨万の富を産むノウハウを持っている!わたしも全財産投資しますよ!
コイト:とにかく本人が見つからない事には、どんな話しも進みません。
前田:そうですよね。ところで、小井戸(コイト)さん。あなたも、あの不思議な旅行ができるのでは?
..コイトは慌てて手と頭を同時に振った。
コイト:いえ、いえ。できません。あれは野中だけの技術です。
..二人は無言で見詰め合った。
..調査は終了した。夕食を済ませてビジネスホテルに帰った。再び民宿に電話する。隊員の一人が帰っていた。ノニカの様子を尋ねる。ノニカは記憶喪失と診断されたという。ただ、3日経って自分のこと、名前などは思い出し、夢子のこともなんとか理解できてるようだ。夢子が東京での事を話すと少しづつ反応する。だが、どこで生まれたのか、どこの学校へ行っていたのかなどは、皆目分からない。アパートの家主も以前の居住地などは全く知らないという。ただ最近毎日仕事探しをしていた。隊員の報告は、そんな内容だ。コイトはこの4日間電車に何度も乗って広範囲を移動し、電話をして人と会い、苦し紛れの言い訳を繰り返した。さすがに疲れていた。<T市に戻るのは明日でもいいだろう>と、ベッドに横たわっているといつしか寝入ってしまった。
..翌日T市の測候所へ移動した。そしてそのままノニカの病院を訪ねた。<ノニカは僕が分かるだろうか?>病室に行ったが、夢子はいなかった。
コイト:やあ…。
..ノニカはベッドに起き上がっている。その瞳がしばらくコイトを見守った。そして微笑んだ。
ノニカ:ああ、コ、イ、ト、…。
コイト:分かりますか?
ノニカ:最近会ったよね?
コイト:はい。
ノニカ:けど、どこの誰だったっけ?…わからない。
..コイトはこの調査開始時にノニカの経歴を調べた。ノニカはS県の海沿いのN市で誕生した。ただし500年も先の事だ。
コイト:以前に同じ仕事をしていたんですよ。
ノニカ:ほう、そうだっけ?
コイト:野中さんの故郷は海の近くで、子どものころよく猟師の船にのせたもらった、て言ってましたよね?なんという町でしたっけ?
..コイトは鎌をかけてみた。
ノニカ:海?…ああ、そういえばそんな気がする。近所の子どもたちと海で遊んだ…なんて町だったかな…思い出せないな。
..そのとき背後で人の気配がした。コイトが振り返ると夢子がポットを抱えている。夢子はすぐにコイトを了解した。見舞いの果物を夢子に渡した。夢子は丁寧に礼を言った。そしてノニカを発見した経緯を話した。最初人が倒れていると聞き大騒ぎとなった。村では100年に一度の椿事だ。そして救急車が来るまでに野中だと分かってさらに家族は驚いた。
コイト:夢子さんに会いに行ったんでしょうか?
夢子:それが、本人に聞いても分からないんです。
..警察も来たが、現金の入った財布はあるしこれといった外傷もなく、事件性無しという事で済んだらしい。入院して困ったのは、夢子も野中について殆ど知らない事だ。知っているのは、「野中信夫」という名前と「ドリームトラベル」という旅行社に勤めていたことだ。保険証・免許証・クレジットカード、何も無い。当初まだ「記憶喪失」の疑いを抱かなかったころ、夢子を見ても何の反応もなかった。いま一番困っているのは夢子だと、コイトは思った。警察にノニカの婚約者だと名乗ったが、本人のことを何も知らないのだ。どこの出身か?、生年月日は?、親兄弟は?…警察も呆れたという態度だ。夢子は捜査してくれるように頼んだが、「それは、警察の仕事じゃない」と言われたと言う。
夢子:このごろやっと最近の事は少しづつ思い出してきてるようなんです。それで…
..夢子は正面からコイトを見つめた。
夢子:さっきの、彼の故郷が海の近くだというのは…どこの県かわからないでしょうか?
..救いを求める言い方だった。
コイト:申し訳ない。それ以上知らないんです。たまたま憶えていただけで…。
..夢子がそれ以上の事を知ったとしても、全て500年も先の事だ。なんの意味もない。コイトも辛い。
コイト:でも、少しづつ思い出してきてるんでしょ?ゆっくり時間をかければ、思い出す可能性はありますよ。
..コイトとしては、精一杯の励ましだ。夢子は頷いた。退室してエレベーターへ向かう。夢子は送ってきた。
夢子:それに、そろそろ退院させられそうなんです。あとは、通院で様子をみましょう、て。
..こちらへの転居届けなど当然出している訳がない。東京にも住所など無い。要するに「無戸籍」だ。コイトは、市役所に相談するように提案した。<恐らくレイカ・ダイセンダツは、ノニカをこちらに放置すると決断したのだ>そう思ったからだ。事件性の無い男の身元調査を警察が本気でするとは思えない。ただし、市役所から警察に依頼があれば調査はするだろう。それも失踪者・身元不明者のデータベースでもあるなら、ある程度は調べる事ができる。だが、この時代そんな物はない。文章で各県警に問い合わせればいいほうで、おそらくそれさえしないだろう。新しく戸籍を取得するには、「これだけ調べましたが、どこの誰だか分かりません」と断言できるまで調査をつくして裁判所に提示するしかないだろう。その第一歩が市役所の門を叩くことだ。夢子は頷いた。
夢子:それから…
..と夢子は、言い淀んだ。きのう夢子はノニカのアパートへ行って来た。下着などを取りにいったのだが、もしかしたら机の中にでも身元の分かる物がないか捜してみた。そして、スポーツバッグに600万円ほどの現金を見つけた。
夢子:まさかとは思うんですけど…やましいお金だったらと怖くなって。
..ノニカはこちらへ来て日も浅い。銀行口座を持っていなかったのだとコイトは思った。この時代は、偽名でも簡単に口座を開くことはできたはずだ。が、現金は量的にはわずかなので、特に預金の必要を感じなかったのだろう。コイトは、笑うとできるだけ明るく言った。
コイト:心配することないですよ。それは彼のお金です。あの歳ですから、それ位の貯金があっても おかしくありません。それで、いま思いついたんですけど、もう少し様子をみてから、経済的余裕があれば戸籍の件を弁護士に依頼されるほうがいいと思います。
..どう考えても夢子が一人で市役所や裁判所を相手にするのは、心もとない。同じ話しをするにしても、相手が弁護士なら役所も掌を返したように対応が違ってくる。コイトの思いつく限り夢子を励ました。夢子の目の光りが強くなったように思えた。


..戻ったレイカは、一日休みを取った。さすがに疲れていた。 遅いブランチを摂っていると、ここ数日の出来事が頭をよぎる。自分のtaskは完了した。後は報告書のみだ。きのう夕方にはコイトが報告に来た。彼は現地にほぼ五日滞在したが、現時間(こちらの時間)では出発から一日後に帰ってきた。つまり一日で五日の働きをしたことになる。見るからに疲労困憊していた。報告の要旨(詐欺対象者の調査は完了した。ノニカの記憶は日常生活ができる程度に回復し、退院した)だけを聞き、1〜2日休暇をとるように言って帰した。だから詳しい話しはまだ聞いていない。レイカには気になっている事がある。<いずれ、ノニカの記憶は全て回復するのだろうか…>術後のテストをすることなくノニカを現地に送りこんだ。こちらに引き止めておく訳にはいかなかったからだ。が、今後どうなるのか、ノニカが全てを思い出す可能性は?…気になる。
レイカ:よし!
..レイカは立ち上がった。気にかかる事はさっさと片付けないと落ち着かない性分だ。医療研究機関の友人屯倉(みやけ)に電話する。今晩の夕食に誘い約束を取った。午後には家の中の用事を済ませた。といっても、掃除は全自動で部屋は申し分なくいつも綺麗だし、洗濯物はシュートに放り込んでおけば包装されて返ってくる。ベランダの小さな花壇の水遣りも全自動なので枯らす心配はない。いまも赤いツル薔薇が咲き揃って甘い香りを漂わせている。レイカは忙しいこともあり、もう永いこと自分で料理をしていないし、後片付けは専用のパックに入れ返却口へ戻せば済む。さらにメイドロボットが1台いる。だからこれといってやることはないようだが、メゾンの親睦会の案内・個人的なメール・季節の衣類管理など意外と雑用が多い。
..午後4時、レイカはまずショッピング街のアンティークショップに向かった。そこで店員を相手に時間をかけて二つの品物を選んだ。
レイカ:先日はお世話になったわね。
..食事は食前酒の乾杯から始まった。
ミヤケ:お役にたてたかな。仕事たいへんなんだろ?聞いた話しでは、先導士て相当キツイらしいけど。
..レイカはこの4日の間に3回山登りした事を告げる。
ミヤケ:へー、とてもぼくには勤まりそうにないな。
レイカ:それも、草鞋履きよ。
ミヤケ:ワラジ…って、あの時代劇に出てくる藁の履物?
レイカ:そうよ。
..屯倉は口を開いて天井を仰ぐ。
ミヤケ:わーお!滑空靴があるのに…ワラジ!まいったなー。
レイカ:でも、健康にはいいわよ。
..レイカは笑う。そして、包装された物をテーブルに置いた。
レイカ:これは、お世話になったお礼よ。
ミヤケ:なんかくれるの?開けてもいい?
..それは、ついさっき購入してきた物だ。屯倉は包装を取ると、
ミヤケ:わおー!
..叫んで、目を丸くししばらく小箱を眺めていた。
ミヤケ:鉄人28号だ!
..本体を取り出した屯倉は、感激のあまり頬擦りさえした。レイカにはそんな玩具のどこがいいのか全く理解できない。が、屯倉がそうした物が好きな事は、学生のときに聞いていた。2日前<礼を何にしよう>と考えて、アンティークショップに捜してくれるよう頼んでおいたのだ。箱には麗々しい鑑定書が添えられている。それを屯倉はまじまじと見つめ、感極まった声で言った。
ミヤケ:よく見つかったね!随分高かったんだろ?いいのかい?
レイカ:喜んでもらえれば、嬉しいわ。
..ブリキではなく鋼鉄製の「鉄人28号」は、事実高かった。500年近く昔の昭和製で、しかも完品だ。安価な車より高い。レイカは自分の年収などについて仔細にチェックしたことがない。おおまかにつかんでいるだけだ。先導士・カレッジの講師などで平均の男女と較べたら何倍も高給なのは分かっている。もしかすると本省の局長以上かもしれない。だからという訳ではないのだが、月々の収支などという些細なことはチェックしたことがないのだ。<わたしも麻里のこと言えないわね>
レイカ:でね、聞きたいことがあるんだけど…
..いつまでも屯倉が鉄人28号から離れないので、水を向けた。
ミヤケ:ノニカのことかな?
レイカ:ええ、そう。
ミヤケ:極力君の希望どおりしたつもりだよ。
..屯倉は説明した。脳生理学・脳神経学・心理学などの脳科学者が数名がかりで処置にあたった。ドクター・カレッジ以降に修得した内容、及び先導士としての知識・経験に関わる記憶を選択的にロックした、と。
レイカ:外科的処置は?
ミヤケ:それはしてないよ。脳を開く必要もないからね。
..レイカも概要は承知している。脳MRIも進化した。ある単語が脳内のどこに記憶されているか、その単語を聞かせると3Dホログラムに神経回路が表示される。先導士に関わる単語を数百聞かせて、そのとき反応する神経回路の統計をとり解析すると、「先導士」がどの箇所にどんな回路で記憶されているかが立体的に浮かび上がってくる。全体像が判明したらそれ等をひと括りにして心理的にロックしてしまう。それでもう思い出すことはない。ロックするには、その括りと極めて不快な記憶を結びつけるのだ。つまり「先導士」は忌むべき記憶として閉ざされ、回路は閉鎖される。
レイカ:じゃ、今後記憶が戻る事は?
ミヤケ:ないよ。ただし、なにかのはずみで、例えば見聞きした単語とか光景、また音楽とかで閉じた回路の一部が刺激されることがあると断片的に再現される…その程度の事はおこりうるよ。でも、本人にもそれが何なのかはわからない。
レイカ:そう。
ミヤケ:それに、もうそろそろ色んな記憶は戻っているころだな。ロックされた回路以外は問題ないはずだから。
レイカ:例えば、最近恋人がいたとして、思い出せるかしら。
..話しながらも屯倉の目はほとんど「鉄人」のほうを向いている。
ミヤケ:微妙だな。というのは、最近「先導士」として行動していたときの出来事だと、恋人もロックされた回路の一部かもしれないし、またはそれはそれでノニカの脳の中で別の回路を作っていたかもしれないから、なんとも言えないな。でも、処置後に何度も恋人と会っていれば、おそらく元通り記憶が戻るほうの可能性が大きいと思うよ。
..確かにコイトの報告によれば、夢子のことは思い出したようだ。レイカは安心した。そしてそれが溜息となった。屯倉は笑った。
ミヤケ:詳しい事は分からないし、聞かないけど、君も随分危ない橋を渡っているようだな。
レイカ:そうね、わたし達は共同正犯よ。
..二人は、声をあげて笑った。
ミヤケ:そうそう、言い忘れるところだった。万が一のためロックを解除する方法があるよ。
レイカ:え?解除できるの?
ミヤケ:何があるか分からないから、仕込んで置いたぜ。赤い字で「Que sais-Je?(クセジュ)」と書いて見せるのさ。
レイカ:それで解除できるの?
ミヤケ:ああ、そのはずだよ。心理学博士のお墨付きだ。
..ちょうど食事もコースを終えた。レイカは立ち上がった。
レイカ:いろいろありがとうね。やっぱり持つべき者は「友」よ。これからもお世話になることがあると思うけど、よろしく。
..屯倉はちょっとあっけにとられた表情だ。レイカは鉄人28号を取り上げると、楽しそうに話しかける。
レイカ:よかったわねー、あなたに夢中な恋人ができて。今夜から添い寝してくれるわよ。じゃ、お邪魔虫は消えるから後はよろしくやって。
..レイカは手を振ってその場を去った。
..次の日、レイカは出勤した。午前にジュニア・カレッジの講義を終え、チームメンバーの行動をチェックした。コイトは予定どおり休んでいる。まだ詳細な報告を受けていないが、レイカは急ぐつもりはない。ノニカの件はまだ終わっていない。そして今後どうしたものか、考えあぐねているからだ。退院したとなれば、最高会は「すぐに連れ戻せ」と言うだろう。レイカの計画では、「ノニカは記憶喪失で何も憶えていない。もちろんこの機関のことも、先導士だったことも。時空移動を不法に使用した罪には目をつむり、連れ戻すよりこのまま現地に放棄するのがいい」と提案し頑張るつもりでいた。だが、ボダイの中には堅物もいる。「なにがなんでも連れ戻してこちらで検査し、長期に亘って観察すべきだ。現地の医療水準などあてにならん」「記憶がなくても罪は罪だ。裁きをうけさせるべきだ」などと主張する者もきっといる。<さて、どうしたものか…>それに、これはコイトの先導士初仕事だ。嫌な結末で終わらせたくない。その思いも強い。なにか、クリーンヒットのようなアイデアはないものか。
..この機関を中心とする街は、富士の裾野を開いて発展したのだが、開発に当たってでき得るかぎり自然を残すことに配慮された。だから緑豊かな街というより、街を原生林が侵食している感じだ。レイカは、思索に行き詰まるとよく散歩にでかける。「自分で考えない。脳に考えさす」それが彼女の遣り方だ。言い換えれば、待つのだ、天啓が降りるのを。そのためには多少体を動かした方がいい。青空を背景に富士が胸を張っている。レイカは背伸びをすると小川の方へ歩き出した。小川に沿って散歩道とサイクリングロードが伸びている。
..ゆっくり20分ほど進んだ。見晴らしのいい一角があり、そこにはちょっとした東屋があって休憩場所となっている。きょう何処まで行くと決めた訳でも、当てもないが、スタート時点からまずはそこまで行ってみようと思っていた。芝の広場に近づくと、東屋に一人の陰がある。判然としないが、見慣れた人に思われた。レイカは少しだけ歩を早める。庇の陰に入っているが、ようやく識別できた。
レイカ:ボダイ?
..レイカが声をかけると、初老の顔がこちらを向いた。ボダイEだ。
E :おお、レイカくん。
レイカ:お散歩ですか?
E :そんなところだ。いや、医者が、というより医者ロボットだけどね、これが運動しろとうるさくて。
..Eはケータイを取り出す。
E :これと健康管理センターが繋がっているもんだから、ちょっとサボるとすぐにお叱りが来るんだよ。
..腕にはバイタルチェック用の瀟洒なベルトが巻かれている。体温・心拍・呼吸・血圧(時には血糖値も)などのデータがケータイに送られ、定期的に管理センターに送信されるのだ。そこでボダイEは笑った。
E :小学生のときクラスに何でも先生に言いつける「言いつけっ子」がいて閉口したものだけど、いまだにその子に付き纏われてる気分だよ。
..レイカも笑ったが、実感はなかった。レイカは一般の学校にはほとんど縁がなかったからだ。ただ籍があっただけで、出席もほとんどしていない。学業修得手段は選択できる。小学から大学まで100%自己学習でも済ませられる。希望すれば科目・項目ごとの年間の修得すべき単位一覧と定期テストの予定表が送られてくる。テストの時だけ学校に出かけ合格すれば次に進める。小学低学年のころは、レイカもある程度出席していた。が、進級するにつれ授業はとてつもなく退屈な時間になっていった。いつも窓の外を見たり、落書きしているので「たいくつちゃん」と呼ばれていた。両親・祖父の相談で自己学習を取る事になった。小学校課程を終えるころには、学習の方針がはっきり決まった。自己学習すると、レイカの場合学校の4分の1の時間で済む。よって拘束による心理的負担も大きく軽減された。そして習うより、必要な資料などを与えておけば自分から開拓していく力がある、と祖父は判断した。その結果強制したわけではないが、小学校卒業時には、自力で中学校課程をクリアしていた。もちろん祖父は油断無く進捗状況をチェックしていたし、高校の課程に進むとレイカから質問してくることも多くなった。15歳の誕生日には、高校課程を修了していたし、とくに理学系は大学レベルに達していた。そんな訳で一部の部活動以外は、ほとんど学校に思い出がない。時間的に余裕があるので祖父の勧める機関の子どもカレッジにも週に3日通い始め、そこで初めて友達らしい者ができた。
レイカ:飲み物はお持ちですか?
..尋ねるとボダイEは、
E :いや。
..と手を振る。レイカはケータイに「飲み物」と言ってから
レイカ:いけませんね。散歩中は定期的に水分を摂っていただかないと…
..ケータイを繰って注文を済ませた。3分後頭上から小型のUFOのようなものが「オマタセシマシタ」と降りて来た。プロペラ式の運搬機だ。ケータイを向けて支払いすると「マタノゴ利用ヲオマチシテイマス」と、あっという間に飛び去った。
レイカ:さあ、給水タイムですよ。
..レイカは緑茶のボトルを渡す。
E :すまないね。
..<今度携帯用保温ボトルをプレゼントしよう>レイカもスポーツドリンクをとりながら思った。
E :そういえば、コイトが最近ちょくちょく出かけているのはT市だよね?
レイカ:はい。例のノニカの件で。それが何か…?
E :いや、懐かしいなーって思った。
レイカ:は?
E :若いころ、28〜9でセンダツになりたてのころ私も何度か行ったことがあったのを思い出したんだよ。そんな事すっかり忘れてた。
..Eは笑顔になると、ふふっと笑った。
レイカ:そうでしたか。何か楽しい思い出でも?
E :そう…昭和、ごめんね、私らは元号の方が分かりいいもんだから、昭和42−3年だったかな、出張したのは。調査が長期に及んで現地に1年もいたかなー。だから知り合いもできた。いい時代だったよ。1回目の東京オリンピックが昭和39年だったはずだ。新幹線・高速道路・カラーテレビにマイカー…日本中が元気に溢れていたよ。
レイカ:そうですか。任務はなんだったのでしょう?お差支えなければ。
E :もう時効切れだから構わんよ。犯罪の捜査だ。特定の事件の捜査じゃなくて、科学データの収集だな。犯罪者がなぜ犯罪に走るのか、そこにいたる過程のデータを多く収集し解析して、犯罪とは何かを科学的に解明するプロジェクトが立ち上げられた。そのプロジェクトの依頼で将来犯罪を犯す者を観察し細かなデータを得る。それが任務だった。だから長期滞在した。
レイカ:そうでしたか。さらに何かいい事があったんじゃありません?
E :どうしてそう思うのかな?
レイカ:顔に書いてありますよ。いい事があったって…女性じゃないですか?
E :ノーコメント。
..Eは笑う。
E :そういえば、そのころ知り合った若者で、よく一緒に飲み歩いた奴がいたな。こいつが、なんと10年後に家庭裁判所の調査官になったんだよ。その若い頃は、女性関係と金銭で問題の多い奴でな、よく調査官になれたもんだよ。ま、どこの社会にもウラがあるからな。ね、レイカくん、人間社会のほとんどは、科学だけじゃ解決は図れんよ。こんどのノニカの件もそうじゃないかな。
..Eは独り言のように言った。なにを言わんとしているのか、レイカにはよく分からない。口を開こうとしたとき、
E :懐かしいな。もう一度行ってみるかな、昭和のT市へ。
..Eは立ち上がった。吊られてレイカも立ち上がる。Eは「車で帰る」と自分の車を呼んだ。迎えの車が上空の見えない自動車道に載って消えて行くのをレイカは見送った。<ボダイEは、なにが言いたかったのかしら…>


..さらに次の日、レイカが出勤したのは9時を少し廻っていた。研究室に落ち着き、まずメールチェックをしようとすると、音声メッセージの画面ボタンが点滅している。レイカの指がタッチした。コイトの顔写真が現れる。
.....先生、急いでお知らせしたいことがあります。
..それだけだが、心なし声が上擦っているようだ。<なんだろう?>
レイカ:コイトにCall on。
..すぐに壁面にコイトが出た。そして、
コイト:いまから伺ってよろしいですか?
..と勢い込んで尋ねる。了承すると恐ろしく早くやってきた。駆けて来たのか、息が荒い。
レイカ:どうしたのよ?
コイト:ちょっとこれを見てください。
..コイトは小さなメモリーチップを差し出す。受け取ったレイカは、PCに差した。壁面にファイルの一覧表が現れる。
コイト:写真のファイルです。
..コイトが示した写真は、古い本の1ページのようだ。何人かのモノクロの顔写真が並んでいる。コイトの説明によると--2005年(平成17年)に平成の大合併というのがあり、全国の市町村が大々的に合併をした。A村もそのときT市に組み込まれ、T市A町になった。編入にあたり村の記憶を残そうと「A村誌」が編纂・刊行された。その本の1ページに最後の村長・助役・村会議員の顔写真が載せられた。
コイト:ここを見てください。
..コイトは楕円に囲まれた一人の人物を指した。歳のころ70くらい、短髪の老人だ。
コイト:これ、ノニカさんじゃないですか?
レイカ:え?
..レイカも思わず立ち上がり、壁面に近づいた。写真の下に「山本信夫」の氏名がある。レイカは息を詰めた。そして、しばらく無言でくいいるように見つめた。
レイカ:言われれば…そのように見える…
コイト:念のため顔認証にかけてみました。
レイカ:それで?
コイト:本人との一致率65%です。低いですが、それは印刷の粒子が粗いせいだと思われます。確か、ノニカさんの名は信夫ですよね?夢子さんは、そう言ってましたが。
..レイカは席に戻るとPCを叩く。
レイカ:そう、…信夫ね。
コイト:夢子さんは、「山本」ですよ。
..レイカはもう一度立ち上がる。そして、しげしげと写真を眺めた。
レイカ:つまり、 ノニカは望みどおり夢子さんと結婚した…そして、山本家の婿養子になった…
コイト:そして、村に受け入れられ村会議員にまでなった…
..二人は、更に写真を見つめた。
コイト:そういうことですよねー?いやー、よかたー!
レイカ:そのようね。でも、どうして…?
..レイカは混乱した。<ノニカは、なぜ連れ戻されなかったのか?最高会はなぜ承認したのか?どうやって戸籍を獲得したのか?>分からない事ばかりだ。だが、はっきりしているのは、ノニカは現地で結婚しこちらへ戻る事はなかったという事実だ。そして、それはもう確定した過去となっている。<なにがどうなると、そうなるの?>思考が突然無重力状態に陥った。レイカは、ソファーに掛けコイトにも座るように勧めた。
レイカ:ね、疲れている所わるいけどもう一度現地へ行ってきて。
コイト:だいじょうぶです。2日休みましたから。
..そしてレイカはノニカの徹底した詳細な調査をするように伝えた。コイトは真剣な表情で聞いている。
コイト:で、ジザはどの辺りがいいんでしょう?
レイカ:そーね…
..レイカは考え込む。ノニカを戻したのは、昭和45年だ。「就籍許可申し立て」を翌年に出したとして、いつ家裁の許可がおりたのか…もう当てずっぽうでしかない。
レイカ:10年後、昭和56年にしましょう。この時代、プライバシーの概念が弱いから他人でも戸籍謄本を簡単に取れるはずよ。できれば家庭裁判所も当たってみて。
コイト:ということは…
..コイトはケータイを指でちょんちょんと押した。
コイト:ジザ198905010600でよろしいですか?
レイカ:そうね。それで転送願いを提出して。目的は「人口に対する犯罪発生頻度の調査」でいいわ。
..<いったいどういう事なんだろう?>コイトが自室に戻った後も、レイカはその思いに囚われ続けていた。可能性だけでいえば、いろんなケースが考えられる。例えば、一旦は連れ戻されたが、ノニカの希望が通って再び昭和45年に返された…あるいは、ボダイの中にレイカのように、連れ戻さなくてもいいじゃないかと考え、他のボダイを説得した者がいる…あるいは、…<いや、こんな事をいくら考えても意味がない。だって、可能性は無限にあるし、成り行きにまかせれば、意図するしないに関わらず結果はもう出ているのだから>自分でクレーンヒットを打たなければ負け試合だと覚悟していたら、勝手に飛び入りしたピンチヒッターがホームランを打った。あるいは、追い詰められたオセロゲームで横から割って入った手が一手指したら敵のすべてコマがひっくり返って大勝した…そんな状況だ。
..午後にコイトは出発した。そして、事務局から「本日午後3時から臨時最高会を開催」の連絡が来た。レイカには説明者として出席命令が出た。<3時。それまでにコイトは戻るだろうか?>もし戻っても、報告を聞かないことにはその後の対応のたてようがない。どんな突拍子もない事実が判明しないともかぎらない。考えた末、体調不良を理由に1日の延期を申請し、医務室に駆け込んだ。<コイトが戻るまでここで待機しよう> 医者は「はいはい、過労からくる不定愁訴ですね。よくなるまで休んでいてください」と笑った。
..そして翌日、レイカは最高会に召喚された。事務局が、議題「ダイセンダツ・ノニカの不法行為と召還について」の経過説明をした。コイトの3回目の報告書が読み上げられた。
A :これまでの経緯は、事務局がご説明したとおりです。さて、まずはレイカ・ダイセンダツに伺いたい。ノニカは記憶もある程度回復し、退院したということだが、なぜ召還が遅れているのかな?
..ボダイたちの視線の集中砲火を浴びたレイカは、一度深呼吸すると、穏やかにゆっくりと発言した。
レイカ:わたしの方からお伺いしたいと思います。なぜノニカの召還は中止される事になるのでしょう?
..ボダイたちの表情が一変した。どの顔も戸惑い、混乱している。そして互いに顔を見合わせた。
A :発言の意図が判らないが、どういう事かな?
レイカ:これをご覧ください。
..レイカは、チップを取り出すと前のPCに差した。
レイカ:わたしのチームは、念のためその後のA村を調査いたしました。そして平成19年刊行の「A村誌」にこんな写真と記述を見つけました。ご覧ください。
..全員が自分のモニターを見つめる。
レイカ:この「山本信夫」というのは、71歳のノニカです。
..前かがみに乗り出す者、眼鏡を持ち上げた者もある。とにかくボダイ全員が食い入るようにモニターをみている。
C :これは?
D :どういうことだ?
..レイカは、間を取るようにざわめきが収まるのを待った。
レイカ:調査の結果判明した事は、ノニカは戸籍のないまま山本家に婿養子として迎えられました。そして、昭和57年にようやく戸籍を取得することができました。彼は、村に良く馴染み人柄が認知されて平成15年に村会議員に推され当選いたしました。
..「おー」「うー」という声が漏れる。
レイカ:さらには、次期村長にという声さえあがっていました。が、平成17年の大合併で村はT市に吸収されそれは実現しませんでした。それから、こちらが昭和57年に家庭裁判所から出た「就籍許可書」です。
..写真が代わる。再度全員が前かがみに覗き込む。
レイカ:以上で明らかな様に、ノニカは召還されなかった。言い換えれば、このあとこの最高会は「召還せず」の結論に達したのだということです。
..部屋が大きくざわついた。「そんなバカな」「トリックだ」「いや、パラドクスだ」などの不規則発言がレイカの耳に届いたが、どの声も弱く戸惑っている。そして、沈黙が支配した。
B :こんなバカな事があるか!これが事実なら、そもそもノニカの出発時に遡って移動を中止すべきだ!
..立ち上がったボダイBが、堪り兼ねたように叫んだ。だがそれは、却って沈黙を重くした。過去が確定している以上、変更を強制すれば時空間に甚大な影響を及ぼす。シュミレーションするまでもなく今回の変更の影響は大きい。間違いなく時間軸に分岐が起こる。つまりこの地球時間は、昭和45年から新しくやりなおすことになる。そして古い時間軸は消滅する。何人かが冷たい目でBを見た。誰も発言しない。Bの提案は、ありえないことだからだ。重い沈黙が被った。Bも失言に気が付き、口をへの字に曲げたままどっかと腰を降ろした。
A :皆さん、いかがですか?ご意見のある方は…?
..ボダイAは全員を見渡す。手をあげる者もなければ、不規則発言すらない。
A :そうしますと、ノニカは召還せず、という事になりますが、よろしいですね?
..それでも発言者はいない。ようやくボダイEが静かに言った。
E :良くも悪くもないですね。他に全く選択肢がないんだから、そのように決定しましょう。
A :そうですね。では「先導士ノニカは召還しない」これを最高会の決定といたします。
..部屋に戻るとコイトが待っていた。最高会の決定をレイカが伝えるとコイトは嬉しそうに言った。
コイト:これでノニカさんの件は、一件落着ですね。
レイカ:そうね。一応そういう事になるわね。
コイト:どうかされました?納得がいっておられないようですけど…
レイカ:あなたは、どう?これで何の疑義もなく納得してる?
コイト:なにも無いかといえば、多少はあります。どうして最高会の決定より先にその決定が実行されたのか、そこがよく判りません。
レイカ:この事態、なにかに似ているというか、何かを想起させない?
コイト:えっ?…
..コイトの視線がしばらく宙をさまよった。
コイト:この…方向性の無い…無限循環する感じ…オイラーの公式の蟻地獄に取り込まれたような…
レイカ:そう、または…「四元数」という異界に迷い込んだような気分。つまり、虚数として表現されるのは時間の元だと言う事よ。
コイト:虚数という概念をベクトル空間に持ち込んだのは、知らない内に三次ベクトル空間を透かして時空間を覗き込んだという事ですか。
レイカ:そういうこと。そしてそこから逆投影して推測されることは、時空間にベクトルは存在しない、という事。
..コイトは大きく息を吸い、吐いた。
コイト:だから、時に今回のような結果が先に起こるという事態も生ずる。そういう事ですか?

レイカ:今回のことで、あなたはすごくいい勉強をしたのよ。先導士でも実際に「時空間にベクトルは存在しない」という公理を経験・体感する人はごく少数だから。貴重な経験といえるわね。
..そこでレイカは、溜息ともつかない失笑を漏らした。
レイカ:それにね、ちょっと手を出し過ぎたかな、とは思っているのよ。だから時間界から反撃をくらった。で、どう初仕事の感想は?
コイト:一言でいえば、「難しい」ですね。覚悟はしていたつもりなんですけど、こんなに難しく体力もいるとは考えていませんでした。でも、ノニカ・夢子夫婦は幸せな人生を送ったようなので救われます。
レイカ:ところで、二人に子どもは?
コイト:いません。できなかったようです。強いていえば、それだけが残念です。
レイカ:そう…
コイト:で、思ったんですけど…
..コイトは言い淀む。
レイカ:なに?
コイト:こんな事言うと、またお叱りを受けるかしれませんが…一つ、思いついた事が…
レイカ:だから、何よ?
コイト:今回のようなケース、異時間同士の間には子どもはできないんじゃないのか、と思いつきました。
..レイカは考える目つきになり、黙っている。
レイカ:そう…有り得る事かも…
..10秒ほど間があった。
レイカ:異時間の結婚は今回が初めてだから、すぐには答えようがないけど、あなたの言うとおりかもしれないわね。可能性は充分にあると思うわ。
コイト:そうですか!
..急にコイトは元気になった。
レイカ:それ、あなたの研究テーマにするといいわ。理論計算だけでもかなり追及できそうな気がするから。あなたにとっても今回は収穫があったってことね。
コイト:そうですね。がんばってみます。ああ、もう一つあるんですが、写真ファイルお持ちですか?
..レイカは預かっていたメモリーチップを摘む。
レイカ:これ?
..コイトは頷いてPCに差す。
コイト:これ見てください。
..壁には、いかにも時代を思わせる建物と通りかかりの数人が写っている。
コイト:調査の時の写真で、裁判所です。それで、この人物なんですが…
..コイトは建物に入ろうとしている初老の男を指す。
コイト:ボダイEに見えませんか?
レイカ:え?
..レイカも立ち上がると写真を見つめた。コイトは、その人物を3枚撮っていた。写真は鮮明だ。認証にかけるまでもないだろう。ボダイEだ。
コイト:家裁でノニカの「就籍申立て」がどうなっているか調査に行きました。その時偶然に見かけたものですから、庭木に隠れて撮りました。
レイカ:昭和56年だったわよね?
コイト:そうです。
..昭和56年の裁判所、そこへボダイEが現れた。レイカの頭の中をいくつかの言葉が駆け巡る。
コイト:ボダイは、裁判所に何のご用だったのでしょう?
..ボダイの行動については、レイカにもアクセスできない。もちろん本人に訊いても惚けられるだけだろう。ボダイは言っていた…「一緒に飲み歩いた奴が家庭裁判所の調査官になった」「人間社会のほとんどは、科学だけじゃ解決は図れんよ」「どこの社会にもウラがあるからな」「もう一度行ってみるかな、昭和のT市へ」「一人で抱え込む事ないよ」…
..ゆっくりと椅子に戻るまでに、パズル片のすべてが符合した。<そうか、そういうことか。これで何故突然形勢が逆転したのか、判った>
レイカ:ね、今夜「打ち上げパーティ」しようか。
コイト:え!いいですねー!
レイカ:チームのメンバーとマニホとノニカの同級生のタルイも呼んで。幹事はあなたよ。至急セットしてね。
..2〜3の細かい打ち合わせの後、コイトはチップを受け取り「よっしゃー!」と駆けていった。それからレイカはEにホログラムした。「6時から今回の任務終了の打ち上げをするのでご出席をたまわりたい」旨を伝え、「顔は出すよ」の返事をもらった。


..パーティは、クラブの一角を借り切って始まった。レイカのチームは、総勢10名だから大きくはないが、それでも揃ってのパーティは随分久しぶりだ。互いに普段顔を合わす事が少ないこともあって盛り上がった。
E :今回はご苦労さま、だったね。
..30分も経ったころボダイEが現れた。
レイカ:ずいぶんお助けいただいて、本当にありがとうございました。
E :何の事かな?礼をいわれる覚えがないけど。
レイカ:T市へいらしたのでは?昭和56年に。
E :ああ、旧友に会いにな。
..そこで、Eは声をあげて笑った。
E :いやー、失敗したよ。こっちは60歳で、相手は44歳だってこと忘れててな。「ずいぶん老けたなー」て驚かれて初めて気づいた。
レイカ:それで、どうなさいました?
E :仕方ないんでな、大病してすっかり弱ってしまった事にしたよ。
レイカ:で、お友達はまだ家裁の調査官をなさっていたんですか?
E :ああ、出世することもなく惰性で生きてるようだった。久しぶりに一緒に飲んで昔話しに花が咲いた。
レイカ:じゃ、旧弊を話題になさったとか?
E :まあな、酒の肴にはうってつけだ。
レイカ:ついでにちょっと脅してみたとか…
E :そんな人聞きの悪い事はしないよ。ま、言うなればご協力を仰いだ、という事かな。
..そこでまた声をあげ笑った。レイカも共に笑う。
レイカ:お陰さまで、事はスムーズに運びました。ありがとうございました。これはお礼と言えるほどの物じゃないんですけど、よろしかったら散歩のお供にしてください。携行用の保温ボトルです。重量軽減装置つきなので、うーんと軽いですよ。
..レイカはリボンの結ばれた包装を渡す。Eは嬉しそうに礼を言って受け取った。
E :じつはね、本当は開祖ボサツに会いに行ったんだよ。
レイカ:えっ!?そうなんですか!?えーっと、開祖ボサツの年齢は…?
E :20代半ば過ぎ、つまりレイカくんと同じくらいだな。
レイカ:確か、「時空間学」に初めて閃いたのが17〜8歳のころと聞いています。では、その頃は研究一筋ですか?
E :いやいや全然。公務員をしていてね。バカ騒ぎをしてほとんど毎晩友達と飲み歩いていたよ。誰も彼の研究の事など知らないし、彼も語ろうとはしなかった。研究的には、全くの孤独だったようだ。彼もやはり独力で道を拓くタイプで、大学の授業も退屈ですぐに出席しなくなり、中退している。
レイカ:そうですか。もしかしたらとは思っていたんですけど、新しい世界を開拓する者には孤独が取り付いてしまうのですね。
E :そうかもしれんね。でも、彼には恋人がいるようだったよ。
レイカ:本当に!それなら嬉しいです。
..しばらくして、
E :少ないが、今日の足しにしてくれ。
..と、封筒を渡すとEは帰った。Eがホールに消えるとコイトが近寄って来た。
コイト:ずいぶん話しがはずんでいたようですね。ボダイとなるとどうも近寄りがたくて。ところで先ほどノニカの処分が発表されました。
..「大先達ノニカを追放処分とする。異時空間先導士・研究室教授の資格を停止する」その発表は、研究員たちに少なからず動揺を与えた。パーティ会場でも声を潜めて「なにがあったの?」「どうして?」などの声が囁かれている。「追放」とは、ただごとでない。どうしてそうなったのか。知りたいのが人情だ。さらに研究員達にとって明日はわが身かもしれない。無関心ではいられない。タルイも傍に来た。彼こそ一番詳しい事を知りたい人間だ。
タルイ:先生、一体どういうことだったのですか?教えていただけませんか?
レイカ:今夜話すつもりだったけど、処分が発表されてしまったから今はまずいわ。明日にでも部屋に来て。
..タルイは頷くと賑やかな輪に戻って行った。
コイト:ところで、もう一つtaskがあるっておしゃってましたよね。そちらは?
レイカ:わたしがやったわ。補助定点の調査・修理よ。完了したけど。
コイト:わー、そっちの方がよかったかなー。どこの定点ですか?お差支えなければですが。
レイカ:機密性はないから大丈夫よ。来年運用開始予定で、T市近くの山の上でグジョウゲという所にあるの。こっちの方が大変だったと思うわよ。何度も山を昇り降りして、地震にまで会って。
コイト:へー、山登り、地震。前言撤回。やっぱ、やらなくてよかったです。じゃ私達同じ所に移動していたんですね。
レイカ:あら、そうね。おかしな偶然。でも、わたしは、江戸とか大正だから別の場所みたいなもんだけど。
マニホ:こらこらキミたち。なにこそこそやってんだ。
..マニホがやって来た。もうかなりできあがっていて、手にしたグラスが揺れている。
レイカ:あーあ、酔っ払いが来た。
..レイカが言い終わらないうちにマニホの足が縺れた。あっと思う間もなくマニホはコイトのほうへよろめいた。慌ててコイトがつかみにかかる。と、グラスから飛び出た液体がコイトの左腕にぶちまけられた。「あー!」異口同音に三人が叫ぶ。かろうじてコイトはマニホを捕らえていた。
レイカ:ほーら、だから言わないことじゃない。
..コイトの腕はびしょびしょだ。レイカはポーチからハンカチを取り出すと、コイトの腕の上から押さえた。
レイカ:ね、悪いけど送ってやってくれない?あとは、わたしがやるから。
コイト:そーですね。一人じゃ無理みたいですね。じゃ、後はお願いします。
..コイトは、マニホを横抱きに抱えるようにして帰った。


..翌日、コイトは7時に目覚めた。コイトの住んでいるのは、貸与されたマンションで、いわゆる官舎だ。マニホも同じ棟の別階にいる。5DKに広い玄関ロビー、植え込みのあるバルコニー付きで快適な住まいだ。コイトは二日酔いになるほど飲んではいなかった。昨晩はマニホを送ると自宅に帰った。部屋のなかを見渡すと脱いだ物が散乱している。メイドロボットがいれば片付けてくれるのだが、それは、ダイセンダツ以上の待遇だ。「あーあ」と、衣類を拾い集める。上着が濡れ茶色い染みを作っている。ポケットに手を入れると、濡れたハンカチが出てきた。淡いピンクだったはずが、染みでまだらになっている。夕べの事が蘇る。 「とりあえず洗って、染みが残るようなら新しいのを返そう」と、ランドリーシュートに放り込もうとしたとき目に付いた物がある。ハンカチの隅の小さな花刺繍だ。コイトはしばらく見入った。<どこかで見たような…>懐かしいような、不思議な気分だ。急いでビジネスバッグを開くとチップホルダーから1枚取り出した。昨日レイカから返してもらった物だ。PCに差し写真を捜す。
コイト:これだ!
..コイトは食い入るように見つめ、拡大したり画像補正をなんどもした。徐々に隅の汚れのような物がはっきりしてきた。花刺繍だ。コイトは思い出す。それは、A村調査のときに利用した民宿で撮った写真だ。民宿の主人は「証拠がある」と、見せてくれた。主人は祖父が子どもの頃「八百比丘尼」から貰ったものだと主張していた。手元のハンカチと画面の刺繍を比べてみる。<同じだ!>写真のハンカチも淡いピンクだ。
コイト:へー、そういうことか…!
..コイトは思わず大きな声をだした。からだの奥からなぜか笑いがこみ上げて来る。いつしか、大声で笑っていた。
..チャイムが鳴った。ドアーを開けるとマニホが立っている。
マニホ:ゆうべは迷惑かけた?憶えてないんだけど、ごめんね。なんかあったの?いやに嬉しそうだけど。
..部屋に通ると、コイトは手短にハンカチの話をした。マニホも半分驚き半分おもしろがった。
マニホ:でも、わたしならもっと早く気づいたわよ。
..その刺繍は、「Rena」の文字を花文字にデザインした物だと言う。そう言われて見直せば、そう見える。
マニホ:でも、行った先が違うんじゃないの?地名が違うんでしょ?
..コイトは、天井を睨んでぶつぶつ言う。
コイト:美女峠…グジョウゲ…。グジョ…美女。グジョウゲ…美女峠。
..二人は顔を見合わせ頷いた。
マニホ:それよ!訛ったのよ!
..コイトはPCを叩く。しばらくして、
コイト:わかったよ。太平洋戦争後にここらを整備するとき美女峠・美女高原になったんだ。それまでは、たしかにグジョウゲと呼んでいる。変更は意図したものなのか、自然発生なのかは判らないけど。
マニホ:一件落着ね。
コイト:そうでもないよ。この事をレイカ先生に伝えるか、黙っておくか…。
マニホ:幻の「美しき尼僧」は、実在していた。
コイト:幻のままのほうが、いいかな?


..その日、午後にレイカにメールが届いた。発信人はコイトだ。
......A村の八百比丘尼は、実在しました。
......法名を「釋尼麗奈大姉」といいます。
......すばらしい名前だと思われませんか?


レイカ:まだ言ってるの。ヒマ人ねー。ばかな事にエネルギーを費やさないで、どんどん仕事をして、わたしを楽させてちょうだい。
..レイカの指が削除をクリックした。






「美しき尼僧伝説」 完










..........(お断り)美女高原(グジョウゲ)は、実在の場所です。
..........創作の元ネタは、尾崎寛氏からいただきました(方言指導も)
..........興味のある方は、検索してみてください。











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