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透明人間になりませんか?

(3)





 

星空 いき

Hosizora Iki













登場人物一覧表

N :先輩、どこ行ってたんです〜?
..腑抜けのようになって帰ったTに視線が集中した。一年生は、帰ってしまったらしい。
Q :あまり遅いんでー、オレ、カフェテリア行ってみたんすよ。…でも、どこにも見えないし……どーしたんすー?
T :ごめん、ごめん。……ちょっと…知り合いにつかまってな。 
..と、溜息をつく。
T :ああ、コーヒー忘れた……。
N :いや、もういいですって…。
L :それよか、先輩、顔色わるいみたいー。だいじょうぶ、です〜?
T :やっぱし、コーヒー行こ。
..と、Tが立ち上がると、3人も後に続いた。途中で方向転換して学生会館へ向かったのは、無性にビールが呑みたくなった せいだ。会館ロビーに陣取り
T :生協ビールでがまんしろよな。
..言いながら、自販機からビール4本取り出しQに運ばせる。もう、計算する気力はなかった。とにかくビールが呑みたかった。 Qは、ビールだ、ビールだ…はしゃいでる。Lが、「わたし、ジュースを」と腰を浮かせた。
T :Lちゃんは、その方がいいな。じゃ、選んで。
..「これで…」と、小銭入れをQに渡し、アゴでLを指した。
..意味もなく乾杯して、Tは一気に半分ほど飲んだ。隣りでQが、「ぷはー!、やっぱビールはうめー!」と叫ぶ。二口目も一気に飲み、Tの ビールは、あっという間になくなった。NとLはあきれて見つめ、Lは自分の前のビールを「どうぞ」とTの方へ差し出した。
Q :先輩、なんかあったんすか……?
..二本目のプルトップに指をかけたTを三人ともじっと見ている。Tはなにも答えず缶に口をつけ、今度はゆっくり飲みこんだ。ようやく人心地が着いた気がした。

Tは屈強な男二人に前後を挟まれる格好で、S1(スーツ・ワン)について行った。背後では、S2(スーツ・ツー) が監視している。大学幹部専用の駐車場に黒光りのセダンが止まっている。
S1:どうぞ、こちらです。
..S1は、ドアーを開けTが乗るのを待っている。Tは背後からS2の無言の圧迫を感じて後部シートに乗り込んだ。S1は運転席へ、S2はTの隣りに 座った。〈どこか、連れて行かれのか…?!〉こんな光景をTVでよく見る。容疑者などを警察に連行する場面だ。
S1:ちょっとお話しを伺いたいだけですので、ご心配なく。お楽になさってください。
..S1は運転席から振り返ると、笑顔を作った。
S1:さっそく単刀直入に伺います。あなたは、φプロジェクト…つまり「透明人間体験計画」に参加されてますね。
..Tの脳は体と同じように硬直していた。思考力が働かない。黙っていると、S1が続けた
S1:それで、いままでにお金はいくら支払いましたか?
T :ひ……ひゃ…ひゃくにじゅう…まん…。
..言葉が喉につかえて出て来ない。
S1:120万円ですね?
..Tは、A-a-N-nと頷く。
S1:学生さんに120万円は、かなり大金ですよね。そのお金は、親御さんから出してもらわれたのですか? ……誤解なさらないでください。わたし達は、あなたを責めているわけではありません。あなたがご自身の才覚・能力で、お金をどう扱われようが、ご自由です。いま捜査しているCaseがお金がらみなので、詳しく知りたいだけです。それにきょうの事が、プロジェクト側に漏れる心配もありませんので、正確に事実をお話しいただけますか。
..Tは訊かれるままに、ぼつり、ぼつりと話した。バイクの事も、これからさらに経費がかかりそうなことも……。
S1:で、どうでしょうね、透明人間って本当に可能なんですか?あなたは、どう思われますか?
..長い沈黙がつづいた後、ようやくTが答えた。
T :可能だと…思います。……いままでのところ不審な点はありません。
..最後に、今日の事は口外しないでください、それがあなた自身のためでもあります、と念を押されTは解放された。
..ビールは、三缶目になっていた。気がつくと、他の三人は声を潜め、新しい話題に夢中になっている。

L :そうなんだって…!
Q :へー!じゃ、本当だったんだ!
N :妊娠何ヶ月よ?
L :五ヶ月ぐらい…。
Q :あの研究室ヤバイって、なー……あの教授、むかしからウワサが絶えねーって、聞いたぜ。
N :Pちゃんの、自殺未遂は…それが原因ってこと?
T :Pちゃんって、Lちゃんの英文科の友達の、キレイな、あの子か?
N :先輩、やっと帰ってきました?……そう、あの子でーす。
T :妊娠してんのか?
..Lが頷く。
Q :研究室のI教授に暴行された、らしーっす。
L :けど、ねー、そんなような話し〜あちこちで〜いくらでも聞くよ、ねー。
Q :だよなー。オレが聞いたのは、やっぱ女子だけど、准教授のデートことわったら、途端に論文評価最低に なって、ゼミでもネグレクトだって…。
N :高校の同級生が、ここの医学部の看護科にいるのよねー、話しに聞くと医者や卵たちのほうが、もっとヒドイらし いよ。…なんか、どの子とでも自由にやれる権利あると思ってるんだってー。当然のようにいきなり部屋へよびつけるんだってー。
Q :だけどよー、いやなら行かなきゃー、いいんじゃ、ねえ?
N :ちがうよー、やり手ババァみたいなーBossの先輩看護師を通じて呼びだされるからー、行かないならスッパリ辞める覚悟がいるのよー。
Q :へー、悪でー!
L :ちゃんと、正式に訴えたらーどうなのー。
T :大学に訴えても、ムダだろうなー。だって、裁く側が、世の中を知らず、同じ環境で生きてきた人間たちで、多かれ少なかれ同じキズを持つ身だからなー。一番に考えるのは、どうやってもみ消すか、サ。…それに正式な裁判ということになるとー、今度は本人のリスクが、とてつもなく大きくなるしなー。
N :大学って、封建的なうえに伏魔殿なのよねー。
T :オレの先輩でさー、「理数の天才」って呼んでいいくらいの先輩がいて、とーぜん研究室に残って功績をあげる、と皆な思ってた……けどー、博士課程途中でいなくなった。
Q :どーして?
T :周囲の人に聞くと、優秀すぎて教授にけむたがられ、イジメを受けて、ノイローゼになったんだって…。本当の人材、才能は、大学に残らんのよ。…Nちゃんのいうとおり封建的な伏魔殿だなー。しかもタチの悪いことにー、大学・医事関係者に、それが異常な状態だという常識がないことだなー。……だから、戦後70年も経ってもー事態はほとんど変わらないー……で、Pちゃん、どーすんだ?…大きい声じゃ言えないけど、5ヶ月 じゃ、おろすワケにもいかんだろ?
L :うん、お父さんがイナカから出て来て、学校に怒鳴りこんだみたい…よー。
Q :He-e---。
..ビールが、体中をまわって神経もほぐれてきた。忘れかけていた本題が、Tの脳に戻ってきた。〈そうだった、ルパンサーに盗まれる美術品の相談 だった。〉
T :「出し物」のことだけど…。
..と、Tが切り出す。
N :そーそう、わたしも、それを聞こうと思ってたのー。もう、時間がないから、早く準備にはいらないと間にあわなくなっちゃう。
T :遅くなって、ごめん。なかなかアイデアがまとまらなくて…。
..と、Tは粗筋を話す。
..場面は、O氏の書斎。ピンク・ルパンサーから「今夜、××を頂く」と予告をうけ、H警部と警官が集まっている。
T :それで、盗られるものなんだけどなー、なにがいいかなーと思って……宝石なら、外に出さないで、 金庫に入れておきゃいいだろ?ルパンサーが透明になって、盗られた物が空中浮遊していきたいんだよ。そー、見栄えのする物で…。
Q :大理石のビーナス像なんか、いいんじゃないっすか?時価一億円の。
T :だから、軽い物じゃないとダメなんだって。張りぼてで作るにしたって、そんなの面倒だろ?
N :大きくて、軽くて、簡単に作れるもの……。
L :掛け軸なんか、どうです〜?……横幅のある、抱一の軸なんて、よくない〜?
N :抱一の掛け軸か…いいんじゃない!
T :ああ、それいいな!金庫に入らないし、軽いし。
Q :ホウイツって、なんだー?
T :やっぱ、三人よれば文殊…だな。助かったよ。
Q :よかったすねー。
N :三人だから、あんたは入ってないの!
..あした筋書きをプリントして持ってくる。台詞や細かいことは、練習しながら決めていこうとTが提案し、Nはなんとか全員集めておく、という結論になった。〈今夜は、忙しいゾ〉覚悟して帰ると、Jから早速添付ファイル付きのメールが来ていた。開いてみると、約束どおり、参考 資料と去年提出された論文のコピーで、全部で結構量がある。〈WaaW!読むだけで大変だ!〉とにかく、まず台本から済ませようとPCに向かう。 キーボードを叩いていると、新しい疑問がわいて来た。〈と、いうことは…オレが演出しなきゃならんのか?そうでなくても忙しいのに…!〉

φプロジェクト体験4回目。
Yuki:きょうはね〜、最初から病棟へ行ってもらうね〜。
..ゴーグルなしで、前回と同じくYukiと病棟へむかう。Yukiがスタッフ・ルームで打ち合わせして、小部屋に入る。
Yuki:ここの部長先生が、みえる予定だけど〜…いま来客中だって〜…ちょっと待ってね〜。
..待ち時間、休みの日はどうしてるとYukiに訊くと「ひたすら寝て洗濯、買出しなんかですんでしまう」の返事。
T :色気ねーなー。映画なんか行かんの?
Yuki:映画〜…永いこと行ってないな〜。最後に映画館行ったの……高1のときかな〜。
..それから、Tが、今話題になっている3D・CG映画の話題を持ちだした。
Yuki:ああ、知ってる〜、って言うか、聞いたことある〜。すごい、って友だち言ってた!
..Chance it !!
T :今度、行こうよ!すっげー、おもしれーらしいぜ。
Yuki:うーん…行ってみたいかな〜、けど、平日になるよ〜。
T :オレは、いつでもかまわんサ。
..そこへ、体も顔も四角い、いかにも体育会系医師が入ってきた。入れ替わりにYukiが出て行ったが、ドアーを閉める前に指で○を作ってみせた。〈やったー!〉
医師:オ待タセシマシタ。ココマデ順調二キテマス。キョウハ、仕上ゲデス。
..〈なんだ?脳も四角かよ…Dr.Square=ドクター・スクエァ=Dr.Sだな〉
..今後は、注射も自分でしなければならない。その時注意しなければならないのは、透明化は一日一回のみで、最大2時間を限度とする。これを厳守すること。透明人の間は、極力飲み食いしないこと。特に犬に気をつけること。匂いやかすかなもの音で、すぐ気付かれるのだが、それ以上に、はっきりヒトを感じる能力があるらしい…などなど細かい注意の後、
Dr.S:コレガ注射器デス。
..と、単に筒状のものを見せた。
Dr.S:モトハ、糖尿病患者ノいんすりん自己注射器デ、サラニ最新ノ無痛針ヲ装填シテアリマス。痛ミハアリマセン。
..まづ、先を上に向けて筒先をピンピンはじいて、空気を抜く。右手の四本の指でしっかりにぎり、皮膚に直角に当て単位メモリを確認しながら 親指でまっすぐ筒を押す。あわてないでゆっくり…と。注入が済んだら20数えてから、静かに持ち上げる。
Dr.S:使イカタハ、ワカリマシタカ?アトデ自分デヤッテモライマスカラ……、ソノ前二、アノもにたーヲ見テテクダサイ。
..言いながら窓の暗幕を引くと照明を暗くした。
Dr.S:オモシロイモノガ、ミエルハヅデス。
..大きなモニターを見ていると、白黒の渦巻きが現れ、やがてゆっくり回転し始めた。そして、時々激しくフラッシュする。回転は、段々早くなる。 Tの体が渦と反対方向へ回転しながら、渦の中心に吸い込まれていく……頭の中で、誰かがささやいている…ト…ウ…メ…イ…… 注…射……〈オ…レ…ハ…寝…テ…ル…?〉…暖・カ・イ…、イ・イ・気分ダ…。
..突然、耳元でおおきな音がして、Tは飛び起きた…〈!・ε・σ・ζ・θ・?…何だ…!〉
Dr.S:ドウシマシタ?
T :オ・レ……オレ・寝てた?
Dr.S:ソノヨウデスネ。退屈ダッタデスカ?
..FU−−u、Tは溜息をついた。
Dr.S:オツカレデスカ?こーひータイムニシマショウ。
..Dr.Sは、笑いながら受話器を取ると、コーヒーを頼んでいるようだった。暗幕が開かれ外の光りが入って 、普通の時間が戻る…… 意識が無かったのは、きっと僅かな時間だろうが、異次元世界へ永く行っていた気分だ。
Dr.S:ワタシモ、ネ、透明人ニナリタイ、ト思ウコトガ、アリマスヨ。
..Dr.Sは、コーヒーを啜る。〈いまのは何だったんだ?なんで、突然異次元に踏み込んだ?〉Tもゆっくりコー ヒーを飲んだ。前回のときから気になっている事が、頭をもたげてくる。〈…次が5回目・最終回だ…タイツ30万、 Mask80万……薬一回15万……とても続けられない…どうしたもんだろ?〉
Dr.S:サテっと、ドウデス?ソロソロ始メマスカ?
..Tは、大きく頷く。Dr.Sは注射器をTに渡し
Dr.S:マズ、袋ヲ破ッテ取リ出シテ…、ソウ、ソウデス……先ノ保護キャップヲ取ッタラ、上ニ向ケ……ピンピント指デハジイテ…少シナラ 空気ガ残ッテテモ、大丈夫デス…四本ノ指デ筒ヲシッカリニギリ…アア、単位目盛リヲ隠サナイヨウニ…腕ガイイデスカ、オ腹ニシマスカ?
..ちょっと迷って、
T :お腹にします。
..と、シャツを上げる。
Dr.S:ジャー、コノ当タリニ垂直ニ当テテ…ソウデス。ソノママ、親指ヲ乗セ…ユックリぐーット押シマス。…ソウ、下マデイッタラ、目盛リガ0カ、 確認シテ…ユックリ20数エマス。…ソウデス。…ハイ、オワリマシタ。待ッテテクダサイ。
..ふぁっとした感じがTを包む。〈また、暗闇になるのかなー?〉
Dr.S:モウ、眠クナル成分ハ、入ッテイマセン。…目ヲ閉ジテ100数エテクダサイ。
..いわれたとおり数え終わると、ゆっくり目をあける。Dr.Sが、心配そうに覗きこんでいる。
Dr.S:気分ハ、悪クナイデスカ…?ヤッパリ、暗闇デスカ?
..Tは、周りをみまわす。〈明るい。暗闇じゃ、ない!〉
T :見えます。普通に見えます!大丈夫です。
Dr.S:ウマク行キマシタネ。申シブン無イデス。…チャント透明ニナッテマスヨ。     
..Tは、腕、足、腹を見た。〈透けてる!!〉服と短パンが、膨らんで残ってる。
Dr.S:大成功デス!今日ガ、アナタノ本当ノ透明人間でびゅー記念日デス。…衣服ヲ脱イデミマショウカ。 アソコニ鏡ガアリマス。
..言われるままに鏡の前に立った。鏡を見ながら全部脱ぐ…映らない。〈これが、透明人間だ!〉 腹の奥から笑いが、止めようもなく噴出してくる。Tは大声で笑った。
Dr.S:サア、コノ階ダケ、ナラ、Staff room以外ドコヘ行ッテモイイデスヨ。タダシ、注意点ヲ忘レナイヨウ、シッカリ頭ニ入レテオイテクダサイ。マヅ、ユックリ歩クコト。 足ガ見エナイト歩キニクク、ムヅカシイノデス。次ニ、人ト行キ会ッタラ、早メニ自分ノホウカラ避ケルコト。相手ニアナタハ見エナイノデ、 アナタガ避ケルシカアリマセン。イイデスネ。ソレカラ、人ニ話シカケルノハ、厳禁デス。絶対接触シナイヨウニ。…頭ニ入リマシタカ?
T :分かりました。
..Tは頷く。と、言っても見えないのだが。
Dr.S:デハ、出テモイイデス。効キ目ハ1時間ナノデ、カナラヅ10分前ニハ、コノ部屋ヘ戻ッテクダサイヨ。
..Tがドアーを開けたとき、
Dr.S:アア、モウヒトツ……患者サンハ、認知症以外ノ、イロンナ精神疾患ノカタガミエマス。ソノ人タチノ中ニ、ゴク稀ニ特殊ナ能力ヲ持ツ人ガイテ、アナタガ見エル カモシレマセン。モシ、ソンナ人ニ会ッテ声ヲカケラレテモ、驚カナイデクダサイネ。ムコウノ人ハ、タダ「なんで裸なの?」ト、思ウダケデスカラ。
..ゴーグルを着けたYukiが、入って来た。
Yuki:保温クリーム塗らなくちゃ〜。今日はちょっと寒いから〜…。
..Tを捕まえると、背中に塗る。
Yuki:これだけじゃ、きっと寒いよね〜。無理しないでね〜カゼひくといけないから〜。
T :どうして、暗視鏡してんの?
Yuki:あなたの監視役よ〜、どっか行っちゃわないようにね〜。居なくなったら、見つけられないモ〜ン。
..遠くから「Satoko-!」が聞こえる。Tは最初の部屋へ入ってみた。窓ぎわに絵を描いている患者がいる。Tは横から覗きこんだ。 一昔まえの駄菓子屋の風景らしい。店の商品や子どもたちの様子が、まるで写真のようだ。手にしているシャープ・ペン一本で描いたらしい。患者は、画用紙に目をくっつけるように細部を描いている。5mmほどのキンディの包み紙に0.5mmの模様を一つひとつ書き込んでいる。寝ている 猫の毛も一本一本描いたらしい。子どもの手の、日光写真の「月光仮面」のデザインなどは、まるで本物そのものだ。〈こんな細部まで、記憶してるのか…?!!〉「飯、まだかな ?ワシャおとついから、なーんも食っとらん」と、入り口のベッドの老人が、入ってきた看護婦に訊いている。「うん、もうちょっと待ってね。もうすぐだから…」 看護婦は、廊下にいる同僚に「やっぱりよ」と小声で言い、同僚は「ほーらね、訊いたでしょ」と笑ってる。 そこそこに広い部屋に4病床なので、狭い感じはないが、看護婦二人入って作業を始めると、やはり窮屈だ。Tは、二人の横をすり抜け廊下へ出た。

. 噴水が、晴れ上がった秋空に気持ち良くキラキラ光る弧を描いている。日差しは暖かく、まさに小春日和りだ。公園を散策する人たち、犬さえも、なぜか皆幸せそうにみえる。噴水の近くで、CDをかけ踊っている若者の一団がいる。 Tは、大きな木の下のベンチに、少し前から座っていた。自分でも気づかないうちに、いま流行っているグループの歌を小声で歌い、体がリズムをとっている。 ご機嫌にもなろうというもんだ…Yukiとの初デートなんだから。
..昨日「ルパンサー」の稽古をしていると、メール着信音が鳴り響いた。
N :誰よ!稽古中はマナーモードにしときなさい!!
..Nがヒステリックに雷を落とした。皆なの目がTに集中した。
T :すまん、スマン、オレだ。
N :先輩〜…タノんますよー。
..Yukiからの初メールだった。
...... .------------------------------
...... .      .......
...... .あした 夕6時まであいてまーす♪
...... .どうかな〜? (^o^)
...... .      ........ 
...... .------------------------------


..Tはケータイで時間を確かめる。〈もう、約束の時間だ〉思ったとき突然背後で、
? :ふりむかないで!
..小声だが、はっきりとした声が聞こえた。低く重いが、女の声だ。
? :そのまま。後ろを見ないで!
..Tは固まってしまった。
? :Tさん、あなたは騙されています。
T :〈!!・×・煤E?・!…?〉






「透明人間になりませんか(4)」へ続く





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