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透明人間になりませんか?

(4)





 

星空 いき

Hosizora Iki

















登場人物一覧表


? :あなたの参加しているφプロジェクト、実はインチキだと判明しました。もう関わらない事を、お勧めします。
. 随分落ちついた声だ。
? :少なくとも、これ以上お金を払わないようにしてください。いいですね?
. 冷たい汗が、Tの瞼まで落ちてきた。
? :そのまま、ゆっくり20数えてください。数え終わるまでは、けっして振り向かないこと。
. 根拠はなにも無いが、〈銃口が、背中に向けられている〉と、感じた。「動け」といわれても不可能だ。Tは緊張して、金縛り状態だった。
? :ハイ、イーチ…ニー…サーーン…
. 声は消えたが、動けなかった。しばらくして、おそるおそる振り返り見回したが、怪しげな人影など何処にも無い。
? :はーい〜。
. すぐそばで、明るい間延びのした声がした。声の方を振り向く。Yukiが、笑顔でTを見つめてる。
Yuki:ごめん〜、待たせちゃった〜?
. Tは、ほっと救われた気持ちだった。
T :そうでもないヨ。
. Tが女性のファッションに通じているわけがないが、Yukiのスタイルは、コンビニに並んでる女性雑誌の表紙から出てきたようだ。〈オレも、もうちょっと気合いれて来りゃイカッタかな…〉Tは時間を確かめた。映画は、人気のため予約制だ。昨日のうちに予約はとれたが、時間が迫ってる。
T :行こー。時間がない。
. 映画館まで7〜8分というところだろう。Tが歩き出すとYukiが小走りで追い越し、
Yuki:早く!始まっちゃうよ〜。
T :なんだよ、Yukiが遅れたんじゃん。
. Tも小走りになる。前を行くYukiを見て疑問が湧いてきた。〈もしインチキなら、Yukiは、当然その事を知ってるはずだ…?ずっと、オレに就いていたんだから…〉公園を抜け、信号を渡ったYukiは、映画館に着き手招きしてる。明るく屈託の無い顔を見ると、そんなインチキに加担してるとは思えない。何よりも、前回の体験で自分の眼で自分の透明化を確かめた。〈…それにしても、さっきの女は何者なんだ?〉


N :先輩?
. 呼ばれてTは顔をあげる。Nがじっと見つめている。
N :先輩、このごろヘンですよー?なんか心ここにあらず…で。なんかあったんですか?…彼女のことでも考えてたのかなー。
. 練習場所が確保できないときは、部室の外にシートを張っている。張るというより、ロープに青色シートを吊るしただけの仕切りだ。本来禁止なのだが、「怒られたら、それから考えよう。兎に角やっちゃえ」と、実力行使している。
N :やっぱ無理みたいネー。
. Nが溜息をつく。
N :いまの見てました?
T :ごめん。よく見てなかった。
. 場面は、O氏の応接間。警部と警官2名が打ち合わせしているところへ、一人の警官が駆け込んでくる。背後から「待てー!、ニセ者め!待て!」と追いかけて来る声。逃げてきた警官が、あわてて隠れる所をさがし、小さなチエストに潜りこむ。
警部:なんだ!、どうした!
警官1:ニセ警官です!いつの間にか、ニセ者が紛れこんでました!
. 警部と部屋の警官が、チェストへ飛んで行き急いで蓋を閉める。
警部:ここだ!この中に逃げ込んだ!
. 警官が急いでチェストにロープを巻きつける。そして、後でチェストを開けると、中は空っぽ、制服だけ残っている…一同アゼンとしたところで、何処からとも無く高笑いが響く…という流れなのだが。
N :無理なのよねー……だいたい太りすぎなんだって!
. ニセ警官の1年のFはかなり肥満体なので、小さなチェストに入るのにもたついて、ひどく手間どる。
W :交代するしかないね。これじゃ、単に時間のムダだ。
. WはTと同年で、修士課程1年(橋梁設計)だ。会員ではない。彼を知っている者は、いささか尊敬の意味を込めて「探偵W」とか、単に「名探偵」と呼んでいる。サークルでは、理科知識が必要なときの科学担当顧問といったとこだ。今回もドライアイスの「霧」や「雷」の発光、極細繊維の入手などを頼んでいる。今日は、進み具合の確認に来た。
T :交代って……だれか、いるか?
. ようやく我にかえったTが、独り言のように言った。
N :手があいてるのは…えーっと…先輩。先輩しかいません。
T :だって、オレは、館の主人…。
N :みんな、三つ、四つ掛け持ちで、手がないんですよー。
W :やるんだな。それしかないだろ?
. Nが、配役の交代を皆なに告げ、Tはしぶしぶ立ち上がる。ぼーっとしてたのは、昨日の事を思いだしてたからだ。映画も面白かったし、Yukiとのデートは楽しかった。映画のあと公園へ戻り、ソフトクリームやクレープを味わいながら、若者たちのパフォーマンス、歌、バンド演奏を楽しんだり、たくさん話しをして笑い転げた。〈あなたは、騙されている〉
Yuki:へー、アメリカ留学してたの〜!?じゃ〜、英語しゃべれんだ〜?!
T :うーん、まーな。〈遊学って言うのが、本当なんだろ、な〉
Yuki:いいな〜、Yukiも行きたいな〜。帰国子女なんて〜、なんかカッコいいじゃ〜ん。
T :オレは、子女ってガラじゃーねーけどな。
Yuki:金髪、ボインのヤンキー娘にもてたんでしょ〜?
T :そんなん、ねーよ。
. 日が傾いてきた。〈あなたは、騙されている〉Yukiが、「いけない」と時間を確かめる。
Yuki:そろそろ、いかなきゃ〜。ごめんね〜、きょう准夜勤なの〜。
T :そっか…大変だな。
Yuki:きょうは、アリガトね〜。楽しかったわ〜。
. 「あなたは、騙されている」…訊くんだ!今しかない!
T :じゃ…じゃ−、またな。、
. 高層のビルにオレンジ色の陽が落ちて行く。そのたそがれの中をYukiは、急ぎ足で去って行った。結局なにも訊けなかった。と言うより…聞きたく無かったのかも知れない。もし、Yukiもグルになってオレを騙しているなら…それは、Tにとって相当なショックだ。


. 稽古のあとで、TはWを誘った。
T :ビールでもどうだい?
W :飲みたい、けど、ノーマネェ(No money)。
T :おー!おやじギャグ!〈またしても出費か…ここんとこ続くなー〉ちょっとならあるぜ。その代わり、あの店だぜ。
. 狭苦しい露地のたそがれに、大きな赤チョウチンの灯が目立つ。これ以上安い店はないが、これ以上無愛想でボロい店を探すのは不可能だろう。二人は、隅の酒樽の椅子に席をとった。学生同士のときはよく利用する居酒屋なので、勝手はわかってる。黙って待っていれば、いつまで経ってもなにもありつけない。セルフサービスでビールも厚揚げトーフも自分で運ぶ。
W :ところで、要件は何だい?なんかあるんだろ?酒おごろうっていうんだから。
. コップ酒に替えて二杯目になったところで、Wが言った。
T :うん、これが、あるんだな……他言をはばかる話しだから、そのつもりで聞いてほしいんだけど。オレの従兄弟で、専門学校一年のZというのが居てな…、こいつが、最近妙なことに関わってるんだ。
. そして、Tはφプロジェクトでの体験二回目までを話した。金のことには、触れなかった。それだけでも、結構時間がかかったが、Wは一言も口をはさまず、黙って聞いていた。Tも少々話し疲れ、グーっとグラスを空にした。
T :どう思う?
W :どうも、なにも、無いさ。常識的に考えて、有り得ない話しだ。ほとんど透明な生物ってのも、居るには居るよ。けど、それらの生物に共通してるのは、洞窟の奥とか、深海とか、ようするに光の届かない環境だ。紫外線を防御する必要も、暗闇のなかで見える必要もないからな。だけど、その生物を日光の当たる所で育てれば、早ければ0世代でなんらかの体色が着いてくるよ、きっと。遅くても3〜4代経つ内にかならず透明じゃなくなるだろうな。だから、透明人間を作りたけりゃ、闇の洞窟に十万年も閉じ込めとくんだな。
T :Uーーn、じゃあ、一回目のモニターで見た3枚の画像は?じょじょに消えていったんだけど。…Zは、そういってる。
W :簡単さ。注射してから写真を見るまでに40分ほどあったんだろ?もう一人の若い医師が、画像を細工したのさ。最初ベッドに横になったところで3枚取り込んで、画像ソフトで加工するのに、慣れてれば40分ありゃ充分だよ。動画は見てないんだろ?
T :二回目に、鏡に映らなかったのと、紫外線を当てたら見えたのは…?
W :おそらくこんなとこだよ。
. とWは、ノートと鉛筆を出すとTに部屋の様子を聞きながら簡単な絵を描いた。
W :……こんな風にな、隣りの部屋に大きな鏡があって、鏡は回転するんだ。で、隣りの部屋の壁紙が、Zの背後と同じ図柄になるように貼ってある。初め45度に開いてあって部屋の照明は点けてない。本人に自分の体が見えないようにな。真っ暗では、看護婦が不自由だから、暗視ゴーグルを使ってるんだよ。そして、照明を当てると言って、隣り部屋の照明だけ、すこしづつ明るくしてくのサ。すると鏡に壁だけが映って見える……。
この時本人の視力に別状なかった。さらに、紫外線を当てると自分が見えるのは、その保温クリームってやつ、それに蛍光物質を混ぜてあるんだよ。そして鏡を閉じて紫外線をあてるんだけど、その時「部屋の照明を消す」と、わざわざ断るのサ。今まで点いていたんだと、強調するためにな。そして紫外線を当てると、視力に異状ないんだから、青白く光って鏡に映った自分が見える。…ま、ざっとそんな仕掛けだな。
T :Uーー
. Tは、唸った。
W :それだけ手の込んだトリックを仕掛けるには、それなりの目的があるはずだが……金を取られてんのか?
T :それは、……聞いてない。
W :だけど、言うまでもないけど、今の話しはボクの推測にすぎないからな。現場を見たわけでなし…事実は、全く違うかもしれないからそのつもりで、な。…それで、Zはその後も体験を続けてんのか?
T :そうらしい。週一のペースで。
W :Fu----n、どうなっていくか…ちょと興味をそそられるなー。
T :オレも、気になるんだ。また聞いてくるよ。ところでサー、お前が解決した事件ってどんなんだ?…結構評判になってて、お前のことシャーロック・ホームズだとか、名探偵って噂してる学生がいるんだけど……。
W :皆な勝手に面白がってるだけさ。事件ってほどのもんじゃないよ……いや、やっぱ事件かー。
. 言いながらWは、ケータイを取り出しいじっている。
T :警察の結論を覆して、謝罪させたって聞いたぜ。
W :写真転送するから……いいか?
. と、ケータイをTに向ける。Tは、あわててケータイを引っ張り出した。二枚の写真が転送された。
W :缶詰のラベルだ。印刷してあるのが表で、数字が書いてあるのが、その裏。ま、それを見て、何か、思うか思わないか。あとで、ゆっくり考えてくれ。
T :これが、事件か?
W :それが、事件を解くキーになった。去年の7月ころだったな。






      





「透明人間になりませんか(5)」へ続く







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