はっくつ文庫-------------------------------------DBL(埋蔵文学発掘)会著作権に充分ご配慮ください。コピー-転送 禁止です。透明人間になりませんか?
Q :消えた?本当に消えたぜ! ..Qが、役を忘れ思わず叫んでしまった。警官役も舞台袖の照明係りも…そしてTも、Wも、みんなみんな目玉を最大限に開き見つめている。観客から大きな拍手が沸き、感嘆とも叫びともつかない声が一斉に上がった。舞台裏からWが飛び出しガウンの後を追う。なんとか捕まえようとしてるようだ。が、空中を飛んで行くガウンにはかなわない。ガウンはすぐに、暗い木立に吸い込まれ消えた。 ..公演は、フィナーレなしで終わった。みんな、どうしたらいいのか分らない混乱状態だった。が、観客は満足していた。拍手がいつまでも続き、サークル全員が舞台に出てそれに応えた。ただWだけは、林のガウンの消えたあたりで何かを調査している。Yukiも、なりゆきをじっと見つめていたが、やがて満足そうに頷くとステージへと向かった。 N :とにかく、撤収よ! ..観客の去った舞台上では、Nが部員たちを叱咤し片付け作業に入っている。 ..Tはガウンを抱え、Qと話し込んでいる。 T :ガウンが一枚多いんだよな。 Q :そーすよね。先輩が着ている一着、そしてこれがDr.Bの一着、さらに飛んでいった一着……全部で三着……用意したのは二着だけだから、飛んでいった分は、誰が準備したんすかね〜? ..Tが視線の方向をかえた時、ちょうどステージ下に来たYukiと眼が合った。 T :あ、Yukiちゃん、来てくれたんだ。 Yuki:どうしたのよ〜?裸に〜ならなかったじゃん。せっかく〜ブヨブヨお腹見て笑ってやろうと楽しみにしてたのに〜。 T :ごめん。なんか手違いがあったらしくて。……そういえば、Dr.Bはどこへ行っちゃったんだ? ..Qを振り返って言った。Qが「探してきまーす」と舞台裏へ消えたところへWが戻ってきた。 T :なんか分ったかい? W :ああ、多少は……話しは後でゆっくりするよ。ところで、今日メンバー以外の者でステージに上がった者がいなかったか? T :いないと思うが…ああ、電気保守が来たなー。 W :電気保守? ..陽が傾いて物の在りかが分りにくくなった頃、メンバーたちが慌しく準備をしていると「電気の保守点検」に二人の男がやって来た。定期の点検で、事務局から「いま使用中だからちょうど点検にいい」と許可されたと言う。「明日にしてほしい」と断ったが、「すぐに済みます。10分もかかりませんから」と、勝手に高いアルミの梯子を立て作業を始めてしまった。 T :みんな着替えやメイクで一番あたふたしてる時だから、誰も点検になんか付き合ってないけど、すぐに終わって帰ったようだったぜ。それが、どうかしたのか? W :そうか……ちょっと事務局へ行ってくるわ…その後で、学食へ行くよ。 ..全員で器材、大道具、小道具をバンに詰め込み、手早く撤収作業を終えると学食へと急ぐ。ささやかな「打ち上げ」のために、低額で頼み込んでオードブルなどを準備してある。歩きながら、Tが収支の見通しをNに訊く。 N :まだ本当に概算ですけど、今夜の分くらいはじゅうぶんいけそうです。今回は、入場者が予想よりはるかに多かったからだいじょうぶです。これも、先輩のアイデアがよかったおかげですよ。あ、そういえば先輩の彼女、来てたんじゃないですか。ぜひ誘ってください。部員も興味津々だから、歓迎しますよ。 T :それがね、今夜は夜勤なんだって。急いで帰っちゃたんだ。 N :それは残念。小姑根性でじっくり観察させてもらいたかったのに。 ..全員が席に着いたところにWもやって来た。TとNが一言づつスピーチして乾杯するとすぐに賑やかになる。ただWだけは、一言も発していない。今もじっとテーブルの一点を見つめたままだ。Tは、ちょっと大きな声を出し席の離れたQを呼んだ。 T :Dr.Bはどうしたんだ?いなかったのか? Q :ええ、誰も見てないし、所持品もなかったすよ。帰っちゃったんですかね。 T :ぼくと舞台に上がってソファーの陰に待機してたから、その時までは間違いなくいたんだけどなー。誰か、それ以後見かけた人ないかな? ..Tは、ぐるっと全員を見渡す。誰も頭や手を横に振るだけで、見たという者はいない。 Q :まさか、本当に透明人間になちゃった、なーんて……。 N :だけど、おどろいたわ、ほんとうに消えちゃうなんて!いったい、なにが起きたんです? L :そうよね、Dr.Bを全裸で走らせて、みんなで取り押さえて警察に渡す。それで、復讐完了のはずだったのに、消えちゃうなんて……先輩、どういう事ですか? T :ぼくにも、何が何だか、さっぱり……。 ..と、Wを見つめると、全員の視線がWに集中する。 T :さっき、少し分ったって言ってたよな? W :ああ、暗くて充分な調査ができないんで、確かなことは明日にならないと分らないけど、これはDr.Bの単独行為じゃない事は、はっきりしている。ある程度以上の組織力のなせるワザだよ。でなきゃ、不可能だ。 T :組織力…って…。 ..Tが言い淀むとWはじっとTを見つめた。<ほら、分っているだろ、あの組織だよ>と、彼の眼が言っている。Yukiとφプロジェクトへの復讐を決めて、Tは「ピンク-ルパンサー」を利用することを思いついた。そのために、会員に事情を話し協力を依頼した。もちろん被害者はTでなく、従兄弟のZだという事で。が、Wに嘘は通じなかった。二人きりの時に「おまえも、困ったやつだな。こんなサギにひっかかるなんて」と笑われた。「いつ分った?」と訊くと、「最初からさ」が答えだった。Tの話し振り、内容からして最初からT自身のことだと分ったと言う。その時、「ばれてんなら、いっそ気楽だ」と、Tは黒スーツ二人組の事も話したので、Wだけは総務省官房の特別捜査班の事を知っている。 W :ま、明日明るい時に調べれば、もっと詳しく分ると思うけど、たぶん今頃は、Dr.Bは可なり落ち込んでいるはずだ。それに、もう二度とサギはやらないだろうから復讐は果たせたんだよ。 居なくなってしまったのは、きっとみんなに恥ずかしくて逃げ出したんだ。 ..へー、ほー…と、全員が感心し、Wの言葉に聞き入った。 Q :じゃ、ぼくらの悪人退治は成功したんだ。 W :ああ、Good Job だ。 Q :やったー!!乾杯! ..その晩は、初めて公演の収支が黒字になったこともあって大いに盛り上がった。二次会のカラオケは、メンバーの半分ほどが参加したが、その席でLが新事実を披露した。英文科のPの妊娠は嘘だった、というのだ。 L :乱暴されたPちゃんは、なんとか復讐したいと考えて「妊娠してしまった。訴えてやる」と開き直ってみせたんだって。 N :へー、じゃー、お父さんが怒鳴り込んだってのは……? L :お父さんにも信じさせたのよ。 N :でも、嘘ならいつまでも続かないでしょ? L :そう、それで「診察を受けたら想像妊娠だった」って、妊娠は取り消したんだけど、それも初めから計画の内らしいの。 Q :でもよ、あの教授、この間退職して地方の小さな会社の研究員かなんかになったって聞いたぜ。 L :妊娠に慌てた大学が、拾ってくれる所を探して無理矢理依願退職させたらしいよ。 Q :それで、田舎の名前だけの研究員か……ま、それだけの事をしたんだから自業自得か。 ..もうかなり酔いの回ったNが、グラスを上げると叫んだ。 N :Pちゃん、えらい!!よくやった!!わたしが褒めてあげる!! T :あのおとなしいPちゃんがねー……ほんと、人は見かけじゃわかんねぇなー。 N :そうよ、だからあんた達も気をつけなさい。あすはわが身よ! ..Nが男子を一人づつ指さす。 Q :なんで、そう繋がるんだよ。 ..翌月曜日、Tには珍しく早く登校した。授業に出るためではない。Wの調査を現場で見てみたかったからだ。Wの研究室へ向かうとPC画面を見つめている。覗きこむと、地方気象台のホームページだ。 W :おす。来たか。ちょとメモしてくれ。いいかい?……18時、15.0度、南南西、10.2…19時、14.3度、南、12.5。書けたかい? ..それから机の引き出しの中をかき回し、双眼鏡と方位磁石を取り出した。部屋を出たWの後について行くと、階段を上へ上へと昇り屋上に出た。 T :こんなとこで、何を調べるんだ? W :ガウンがどうやって飛んで行ったと思う?あれは、薄い生地で、見かけだけ本物に似せて作ったガウンだよ。でも、舞台用と同じように真紅の裏地もあったし、軽いとはいっても1Kgはある。つまり水1000mlと同じ重さだ。それが、約20mを軽々と浮遊した。お前なら、どんな手を使うかな?念のために断ると、機械的な音は全くしていなかったぜ。 T :へー、追いかけてる間に、それだけの情報をつかんだのか。さすがだな。……そーだな……大きな凧か、気球にでも吊るすか……。 W :そうだよ。恐らく真っ黒なガス気球に吊り下げたんだ。そして木立まで強靭な極細繊維で引っ張り寄せる。すぐに繊維を切り離してガウンを回収し、気球は飛ばしてしまう……そんなとこだろうな。夕べの調査で、木立の近くの草がひどく踏み荒らされている所が一部分あった。2〜3人で作業したんじゃ、ないかな。 T :なーるほど。 W :で、お前とDr.Bが入れ替わると決めたのは、土曜日の公演の後彼に会ったときだろう? T :うん。土曜日にやって来るかどうかは、その時にならなきゃ分らないからな。 W :そうすると、ガウンを飛ばした相手は、その時間より後に計画し準備したことになるな。さっき簡便な方法だけど計算してみたら気球は2mは必要だ。それに偽のガウンとヘリゥムと極細繊維などがいる。さらにもう一つ一番やっかいな問題がある。その気になっているDr.Bを説得し練習しなくちゃならん。 T :そうだよな。 W :短時間でそれだけの事ができるのは、相当に力のある、訓練された組織でなきゃ不可能だ、という結論になる。この件に関心を持っていて、それだけの組織という事になれば、当然あの組織だという事だ。 T :うーん、そういうことか。でも、組織は、Dr.Bがストリーキングするとなにが困るんだろう? W :それは、オレたちには分らないな。 T :で、ここでなにを調べるんだ? W :気球探しさ。見つかる可能性はほとんどないけどな。もしかすると、電線かビルに引っかかっているかもしれない。 ..Wは足元に方位磁石を置いて、さっきのメモを確認している。 W :お前のほうが目がいいんじゃないか。黒くて2mくらいの物体を南を中心に左右45度の範囲で探してみてくれ。 ..と、双眼鏡をTに渡す。Tは双眼鏡の度を調節して、いわれた方向をゆっくり見渡す。 W :風による距離と上昇速度からすると…んー……水平方向に5分間に3.5Kmか……すると、上昇角が、ほぼ30度……。 ..Wはぶつぶつ独り言をいいながら、遠くを眺めている。3分ほどたった頃、Tの動きが止まった。 T :あれ?……あれ、それっぽく見えるけどなー。向こうの山の茶色くなってる所の傍に送電線の鉄塔があって、その腕が出てる所に黒い布のような物がはためいている……かなり遠いんで、分りにくいけど……違うかなー。 ..Wが双眼鏡を受け取る。Tが、もう一度同じ事を言いながら方向を指差す。 W :うーん、確かにそれっぽいなー。けど、確かめに行くには遠すぎるな。 ..二人は研究室へ戻り、ステージへと向かった。 T :舞台から木立まで繊維を張ったんだよな。だれが?いつ? W :電気の保守係りさ。みんなあたふたしている時で、もう暗かった。空中に極細繊維を張っても誰も気づかないよ。もちろん繊維は一本じゃ無理だから、5〜6本あったかもしれない。それに保守点検があったか、事務局で聞いてきたよ。そんな事はなかったってさ。 ..ステージには、格子状のシャッターが降ろされ上がることはできない。 W :保守係りは、繊維を結んだガウンを舞台袖の暗がりに隠しておいたんだろうな。気球がその時付いていたのか、あるいは上演が始まってからつけられたのかは分らないけど、どっちにしても真っ暗だから、少し高い位置にあれば誰も黒い気球には気づかないさ。 ..Wはその方向を指さしながら説明する。 W :Dr.Bは、ガウンを着た上に、更にその薄いガウンで体を包むようにしてソファーの陰で待機した、と思うよ。で、お前が屈み込むと、すぐに立ち上がりながら半回転したところで繋がっている繊維が引っ張られ、薄いガウンが上へ持ち上げられる。それに合わせて、Dr.Bは姿勢を低くする。ガウンは前へ引っ張られるから、自然と舞台前方へ進み気球で空中へ引き上げられる。みんなそっちに気をとられているから、屈んでいたDr.Bは、その間に後ろの暗幕の裾から裏側へすり抜ける。ガウンを引き寄せたグループは、急いで回収して気球を切り離す。……だいたいそんなとこかな。 ..二人は木立も調べた。そして、細い黒い繊維が一本、幹に絡み付いているのを見つけた。 W :なんにしても、金を取り戻せてよかったな。 T :ああ。それに結構面白い経験だったしな。 W :ただ、小さな疑問が残ってはいる……。 T :なんだ? W :「日曜日にストリーキングを決行する」と言うことを組織はどうして素早く知る事ができたんだ? T :……んーー……偵察していた、とか……。 W :そーかなー。どうもその点が釈然としないんだ。 ..途中まで引き返すと、Wは研究室へ、Tは「社会保険労務士の勉強会」へと別れた。 U :これでφプロジェクトも事実上消滅ですね。 ..女性捜査員Uが問いかける。 X :ああ、そうなるね。T君がとんでもない事を考えてくれたので、余分な仕事が増えたけれどね。せっかく殆ど消滅しかけていたのに、T君としては、しっかり復讐しないと納まらなかったんだろうな。それもYukiちゃんのためかな。Hahaha……。しかし、ここへ来て警察沙汰はやっぱり困る。という事で忙しい思いをさせたけど、よくやってくれたよ。ありがとう。 U :いいえ、今回のオペレーションは簡単で楽な仕事でした。ただ一つを除けば、ですけど……。 X :え、それは、何かな? ..Uは笑いながら答える。 U :二十歳(はたち)そこそこのギャルを演じるのは、かなりキツかったですよ。 X :HAHAHA…、いやー、よく似合っていたよ。かわいいギャル看護士さん。でも、さすがに全国6000人の看護士、看護学生の中から選ばれただけの事はあるなと、いつも君の仕事には感心している。君は、看護学校に通いながら演技法、法律の基礎、更には自衛隊のレンジャー訓練まで見事に消化した。当然、知的にも高い水準が要求された。私だって、初めて話しを聞いた時には、そんなスーパーウーメンは居るはずがないと思ったよ。でも、ここに一人いた。いやー、本当にいつもいい仕事をしてくれるので助かっているよ。 U :おそれいります。 X :ところで、この前の話し考えてくれたかな? U :FBIですか。 X :うん。2〜3年毎に捜査員をFBIに出向させている。今回は、ぜひ君を推薦したいと考えているのだが……。 U :もう少し考えさせてください。 X :無理強いはしないよ。大袈裟な話しではなく、遺体で帰ってくる可能性も低くはないからね。それに、そんな事態になっても観光旅行中の事故か、行方不明で処理される。ただ、無事に三年の研修を終了すれば、君の地位は磐石の物になるし一生は国家が保障する。私は、君ならできると思う。5日の休暇の間によーく考えてみてくれ。 ..マンションへ帰ったU(Yuki)は、入浴後飲みたい気分になった。総務省で用意してくれたマンションは、当然セキュリティは万全だが、一人暮らしには広すぎて却って孤独感を増した。リビングの全面強化ガラスの窓からは、天気のいい日には富士山も眺められる。眼下に夜景の輝きを見てワインを飲んでいると、考える気がなくても「FBI」が勝手に浮かんでくる。<3年前のわたしなら、すぐに話しに飛びついただろうな…>だが、今はなにかが足を引っ張っている。「止めといた方がいいんじゃない…」と。<…ううん、ほんとうは、わたしはその訳を知ってる……知ってるけど、直視したくないだけ…>思い悩んでいると、ケータイが陽気なメロディを響かせた。Tからのメールだ。 ....--------------------------------- .........イェー!!バイク取り戻したぜ! .........今度遠出しようよ! .........一度風になると、もう車に乗る .........気がしなくなるほど、楽しいよ。 .........都合のいい日教えて! ....--------------------------------- ..UはKu…と笑った。そして笑った後涙腺がゆるんで鼻の奥がつーーんとなるのを感じた。 Q :UOooo!すっげー!こんな近くで飛行機見たの、初めてっすよー!! ..降りたQが叫ぶと、ヘルメットをとりながらTが怒鳴る。 T :うるせー!なんでお前とツーリングしなきゃならんのだよー! Q :まだ言ってるんすか。仕方ないでしょ。先輩、彼女に振られたんだから。 T :振られたんじゃねえ!って何度言えば分るんだ!帰ってくるんだって! ..二週ほど前にTはYukiから最後のメールをもらった。 ....-------------------------------------- .........連絡遅くなってごめんね。変なこと .........になっちゃった。φプロジェクトは .........とっくにやめたんだけど、その後い .........ろいろあって、本当の研究所に行く .........ことになったの。そう、透明人間の .........まじめな研究所。 .........だから当分会えないの。さみしい! .........もしかすると今度会うときは、わた .........し透明人間になってるかもしれない .........。でも、そしたら二人で透明人間に .........なればいいんだ!二人ならさみしく .........ないし、最強のペアになれるよ! .........ただ、なん年かかるかわからないし .........、その間連絡とれなくなっちゃうの .........がつらいよー。 .........とりあえず、これが最後のメールに .........なるけど、いつか透明人間になって .........向かえに行くから待っててね!わた .........しもその日を楽しみにがんばるから。 .........大好きよー!! ....--------------------------------------- ..そしてケータイは繋がらなくなった。Tは、その後なん度メールを読み返したかわからない。そして、誰の眼にも明らかに元気がなくなっていった。つい先日Qが、「ツーリング連れてってくださいよー。オレ、バイク乗ったことないんっす。一度乗りたいなー」と言った。それがきっかけで、Tは<久しぶりに遠出してみるか>という気分になった。そして、今朝出発のとき無理矢理Qが後部座席にしがみついたのだ。もしかしたら、元気をなくしたTへのQなりの思いやりだったのかもしれない。 T :あーあ、お前とツーリングなんて最悪! Q :けっこうしつこいタイプすよね。そうだ!次の時は、オレ、女装してきますよ。 ..殴ろうとしたTの拳を身軽にかわしたQが叫んだ。 Q :すっげー!先輩後ろ見て! ..振り返ったTの眼の前をそれまでで一番近距離を大型飛行機が通過していく。窓に乗客の顔が見えるくらいだ。Tも見とれた。やがて轟音と共にどんどん上昇していく飛行機を二人は見送った。が、当然彼らは知らない…その飛行機に決意を固めたUが乗っていることを。 Q :いいなー、一度はアメリカ暮らしも悪くないかも。先輩は、どうだったんすか? T :もう金髪グラマーにモテモテよ。 Q :ほんとに!?また行きますか?! T :また行くなら……<Yukiちゃんを連れてってやりたいよ。行きたがってたもんなー>……お前以外の誰かと一緒だな。 ..飛行機は輝く青に溶け込み、やがて視野から消えた。 |
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