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結婚はイヴでなきゃ!(2)





 

星空 いき

Hosizora Iki

















..カケルはセンドーを直視した。<この女は、何者なんだ?なぜ事件にくわしい口振りなんだ?>
.カケル:センドーさんとおっしゃいましたね。レナちゃんの関係者ですか?それとも警察の方?
.センド:どちらでもありません。
..落ち着いた答えだった。
.センド:いまは、私に附いて来ればわかります、としか言いようがありません。ここでいくら説明しても決して理解していただけ無いですから。
.カケル:附いて来る?----どこへ?
.センド:事件を確認できる場所です。
.カケル:なぜ、あなたがそれを知っているんですか?
.センド:いっしょに来ていただければ、わかります。
..くるりとセンドーは身を翻し、後方へ歩き出す。10歩ほど進んだところで、歩き続けながら言った。
.センド:真相を知りたければ、附いて来てください。
..カケルは去って行くセンドーの後姿を見ていた。危険は感じない。女がさらに10歩ほど進んだ時、カケルは後を追い始めた。だんだん歩を早める。なぜか、迷いはなかった。
.カケル:どこへ行くのか知らないけど、時間がかかるんじゃ--
.センド:いいえ。10分もかかりません。
.カケル:?、10分かからない?
..駐車場をはずれると、左手の本堂から右手の奥へと続く山道に従わず、そのまま正面の小高く暗い山の方角へ向かっていく。センドーは、腰くらいの高さの枯れ草の中へ押し行った。その後を草を足で払いながらカケルはついて行く。慣れてくると、ゆるい昇り勾配になった道なき道は、本来の道だったことが分る。枯れ草でわかりづらいが、石が敷かれていて歩きやすい。昔はちゃんとした道だったのが、使われなくなり忘れさられたものらしい。すぐに右へ直角に曲がり、さらに左に曲がるともう敷石はなく、木々に覆われた崖が行く手に立ち塞がる。体を低くして木々をくぐりながら、センドーは山肌むき出しの崖に向かっていく。
.センド:もし止めるなら、ここで決めてください。
..崖に突き当たった暗い所でセンドーは振り返る。
.センド:ここから先に進むなら、約束をしてください。
.カケル:約束?
.センド:わたしの事、これから見聞きする事を絶対他言しない、という約束です。
..センドーは地味で暗い印象だが、まばたきしないで見つめる目は実にきれいだ。ちょっとの間カケルはその目にみとれた。
.カケル:わかりました。約束します。
..センドーは黙って、さらにカケルの目を見つめる。カケルの本心を読んでいるようだ。
.センド:では、ここへ入ります。
..そこには洞窟があった。覗きこむと少し入った所で、時代劇の牢屋のように太い木の格子が行く手を閉ざしている。センドーは鍵を出すと、大きな錠前をはずし巻いてあったチェーンを解いた。センドーが格子に手をかける。<いくらなんでも、あんたじゃ無理だ>カケルは手伝おうと手をだしかける。
.センド:だいじょうぶです。
..センドーが、格子を持ち上げるようにすると、一部分だけが切り取ったようにはづれ、小さな入り口ができた。ふたりが中へ入ったところで、センドーは再びチェーンを巻き錠前をつけた。少し屈まないと頭をぶつけそうな高さだ。奥へ進むと光りが届かなくなり、センドーが手にしたライトをつける。
.センド:もう背伸びしていいですよ。
..言いながらライトでゆっくり天井・壁を照らす。センドーが壁際でなにかしていたが、急に部屋が明るくなった。そこは天井の高い、かなり広い空間だった。
.カケル:へーー!
..カケルは部屋を見回して、驚きの溜息をついた。
.センド:ここは古い時代から洞窟だったようです。戦時中この町にも空襲がありそうだ、ということで防空壕兼寺宝の避難場所として整備されたようです。
..カケルはただ感心してながめている。その間にセンドーは木製の大きな衣装ダンスを開いた。中には、赤・白・青の小さなライトを点滅させた機器類が詰まっている。センドーはそこで、しばらくキーボードを叩いたりいくつものスイッチをいじったりしていたが、タンスを閉じカケルの傍へ来た。
.センド:いきます。
..部屋の中央の床にまばゆい円が現れる。センドーはカケルの手を摂ると、ふたりで円の中心に立った。
.センド:今日は、なん月なん日ですか?
.カケル:12月27日です。
.センド:今なん時なん分ですか?
..カケルはケータイを出して時刻を確かめる。
.カケル:12時46分です。
.センド:12月27日の12時46分、それを覚えておいてください。
..話している間に、段々光りが強くなって目を開けていられない。両手で顔を覆っても、まだ眩しいくらいだ。そして、ジェットコースターの落下のような無重力状態に陥った。上下が分らない。目眩に似た気分が襲ってくる。 ----突然、暗くなってドン!と着地したような衝撃に襲われる。カケルは顔を覆ったまま、しゃがみこんでいた。
.センド:済みました。
..カケルは目を閉じたまま、ゆっくり立ち上がった。
.センド:初めてなので、気分が悪くなったかもしれません。どうですか?
..確かに弱い立ち眩みの状態だ。目を開けて周囲を見渡す。なにも変っていない。
.センド:歩けますか?
..カケルは5〜6歩歩いてみる。
.カケル:だいじょうぶ。歩けます。
.センド:では、駐車場へもどります。
..来た時と逆のコースを辿って、ふたりは駐車場に戻ってきた。<もう、すっかり暮れている。そんなに時間が経ったはずないのに--?>駐車場には車が一台残っているだけだ。センドーがその車に向かって進む。色とりどりのビーズを撒き散らしたかのように、住宅には明りが灯り街並みも夜の化粧に輝きだしている。<なんでだ!?なんで暗いんだ?!>
.センド:これに乗ってください。
..センドーは、運転席に乗り込もうとしていた。わけも分らず、カケルは言われるままに助手席に座った。
.カケル:10分もかからないはずじゃ?もう暗いんだけど・・?
.センド:その件については、いまからご説明する事を理解していただけば、納得できます。
..センドーは涼しい笑顔でカケルを見つめる。
.センド:ところで、今日はなん月なん日でしたっけ?
.カケル:12月27日。
..カケルはぶっきら棒に言う。
.センド:ケータイで確かめてください。
..しぶしぶケータイを取り出したカケルの表情が「あれ?」っと変った。
.センド:時間も確かめてください。------,では、もう一度。日にちと時間をおっしゃってください。
.カケル:--12月--24日--6時--05分。どうして?壊れたのかー?
.センド:いいえ、正確です。ここは12月24日で、いま午後6時05分です。
..センドーは、にっこり笑う。
.センド:わたしは異時空間先導士です。あなたを少し過去に先導いたしました。ようこそクリスマスイヴへ、と言いたいところなのですが----これから起こる事は、おそらくあなたの人生で最悪の事件です。
..センドーの表情が厳しくなった。
.センド:実は余り時間がありません。
..いいながら車をバックさせ、本堂の方へ走らせる。ちらほらと雪が降り出していた。風花ていどだ。
.カケル:え--?じぁ、ぼくは過去に移動したっていうんですか?
.センド:そうです。
.カケル:ばかな!そんな子供だましの話しを信じろ、と----。
.センド:信じられないでしょうが、事実です。ひとつ証拠をお目にかけましょう。
..センドーは方向転換して、A駅前に向かい、コンビニの駐車場へ入る。
.センド:新聞、弁当などで日付けを確認して来てください。
..カケルはしぶしぶ車を降りる。
.センド:ああ、わたしにお茶を一本。
..センドーは窓からコイン入れを出した。カケルはそれを取ると店内に入った。新聞を見た。--12月24日--。弁当の日付け--同じだ。
..レジでお茶を買う時
.カケル:今日は何日でしたっけ?
..店員に訊いた。答えは同じだ。頭が混乱しそうだ。
.センド:わかっていただけましたね。ほら、ジングルベルも聞こえてます。
..センドーはお茶を一口飲んだ。
.センド:24日6時ころ、つまり今ですが、どこにいました?
.カケル:えー、ぼくのアパートでレナちゃんといた----はず。じゃ、いまアパートに行けば、もう一人のぼくとレナちゃんが、いる?----ってこと?!。

24日・土曜日・クリスマスイヴの午後、カケルとレナはB町駅で待ち合わせた。カケルはアパートから駅まで毎日25分かけて通っている。いつもは、ただひたすら目的地に向かって歩くだけの道路だが、今日はちがう。
.レ ナ:でね、メニューなにがいいかなーって、いろいろ考えたの。調理器具や食器がほとんどなくても作れて、まあイヴに似合う料理なーんだ?
.カケル:うーん。鍋もの----じゃないな。
.レ ナ:Bu--u.土鍋がないでしょ。イヴらしくないし。
.カケル:ステーキかな?
.レ ナ:Bu--u.
..一週間前カケルは今日のためにA町一番のホテルの展望レストランを予約し「イヴに食事をしよう」とレナを誘った。
.レ ナ:もしかして高級レストランとか、予約してるの?
..「うん、まあ」と答えると、「だめ、もったいないわ」と言い、
.レ ナ:それより、カケルさんの部屋、見たことないから見てみたい。ね、部屋でクリスマスしよう。料理は、わたしがするから、たいして期待しないでね。高い料理を緊張して食べるより、ゆっくり気らくにおしゃべりしながらの方がたのしいわよ。
..反対意見を出しても絶対通らないなとカケルは思った。
.カケル:それで、いいの?
.レ ナ:ムダはしないで、そのぶん貯金にまわして。その方が、いいって。
..B町にもチェーンのショッピングモールが数年前に進出して、旧来の店舗の多くが姿を消した。食料品に限らず本、DIY用の道具や器材、介護相談まで殆ど必要なものが揃っている。そこでレナはmemoを見ながら食材を揃え、カケルはカート押し係りだ。
.レ ナ:ね、ホーローの鍋なんて持ってないわよね?
..無駄になるものじゃないからと、かわいい花柄の小さなホーロー鍋を食器コーナーでひとつ選んだ。ずいぶん大量にいろんな物を買い込んだなという気がしたが、カケルが高級レストランに胸算用していた額にくらべたら、四分の一にもならない。いつもと違って二人分だし、種類が多いせいで大量に感じるのかな、とカケルは思う。
..アパートに着くと、レナはバッグからエプロンをとりだし準備を始める。
.レ ナ:へー、思ったよりきれいにしてるのね。もっとちらかっているかと思った。
..カケルの部屋は、居間の六畳とベッドを置いた四畳半、それに狭い台所とバス・トイレだ。男の一人住まいには充分だ。ふだんは雑誌や新聞、DVDなどが置きっぱなしだし、脱いだものは椅子やベッドの脇に放り出されたまま、掃除機も週に一回かければいいほうだ。レストランをキャンセルしてから少しづつ片付けて掃除機もかけ、今朝ベッドのシーツ、掛布も取り替えた。いってみれば、カケルがこの部屋に入って以来最高の状態なのだ。
.カケル:きれいだろー、へへ・・、実は一所懸命片付けたんだ。
.レ ナ:fufu・・、そうだと思ったわ。
..レナは台所に立ち、カケルはテーブルの仕度をする。レナに言われてカセット式のガスコンロを置いて、買い物の中からごそごそと取り出したのは、キャンドル3個。百均コーナーで見つけた物だ。机(ほとんどPCが占めている)にちょっと凝ったのを1個、テーブルにサンタとツリー型を置いて、ワインを置くともうやることがない。
.カケル:なんか手伝おうか?
..言いながらレナの後ろから腰を抱く。
.レ ナ:だめ、あぶないから。ただ切るだけだからすぐできるわよ。TVでも見てて。
..やがてできあがったのは、チーズフォンデューだ。レナも座ってカケルがワインを注ぐ。
.カケル:ちょっと待って。
..カケルはキャンドルに火をつけ、部屋の明かりを消した。やがて机のキャンドルが回り始め、壁を赤いサンタとトナカイの影が走る。
.レ ナ:わー、すてき。さっき買ったの?
.カケル:うん、レナちゃんがトイレに行ったすきにね。じゃ、メリークリスマス!
.レ ナ:メリークリスマス!
..ワイングラスを上げ乾杯だ。
.カケル:うまそー!なにからいこうかな。
..カケルはマッシュルームを串に刺し、「こうするんだよね」とチーズをからませる。

A・B町間の線路は、山波を避けて両駅間で南へ大きく迂回していた。一方、国道は北の丘陵地帯を直線的に走って両町を結んでいる。その国道をカケルとセンドーは、B町方向へ向かっている。
.カケル:その頃、食事を始めて少し経ったころ・・・。
.センド:なにか?
.カケル:急に体調がおかしくなってきた。どんどん体から力が抜けていったんだ。
.センド:え?--本当ですか?--それなん時ころですか?
.カケル:5時は回ってた--半にはなってなかった--と思う。
.センド:じゃ、いまより1時間ほど前ですねー??--それで?
.カケル:とにかくプレゼントを渡さなきゃと思って、ようやく寝室まで行って、プレゼントを持って来て渡したんだ。----そしてレナちゃんも手編みマフラーをくれたんだけど、ぼくの事心配して、「どうしたの?」「だいじょうぶ?」「お医者さん行く?」って動転して、たがいにプレゼントどこじゃなかった。
.センド:そんな!?----そんなはず、ない!
..珍しくセンドーが興奮した。が、すぐに気をとりなおしたらしく、
.センド:いま6時25分くらいです。あと10分ほどであなたのアパートにもっとも近づきます。つまり、ふたりのカケルさんが200メートルほどの距離に接近します。同時間軸の同時間帯では、正常な状態に戻そうとする力、つまり「一つになろう」とする力が二人に働きます。その力は距離が近いほど強く働きます。二つの磁石を 近づけたときと似ています。この時二人で一人分の生体エネルギーをわけあうことになるので、事態が単純な場合は、それぞれがふだんの半分のエネルギーしかありません。これからじょじょに体から力が抜けていくのはそのせいで、そのピークがあと8分ほどでやってきます。


.レ ナ:ほんとに、どうしちゃったの?どこか、痛い?苦しい?救急車、呼ぼうか?
.カケル:いや、どこも痛くない。さっきよりは、すこし良くなってきた。横になってれば、きっと大丈夫だよ----
..Pororoo--
..チャイムが鳴った。
.レ ナ:だれかしら?わたし、出てもいい?
.カケル:ああ、頼むよ。
..立ち上がって部屋の照明を点けドアを開ける。そこには、マサトが立っていた。レナは、どこかで見たことのある人だなと思う。
.マサト:こんばんは。カケルくんいますか?
.レ ナ:いますけど--どちらさま--。
.マサト:おーい、カケル、マサトだよ。
..マサトは、中へ向かって呼びかける。
.レ ナ:あのー、カケルさん、ちょっと具合が悪いんです。
.マサト:具合が----そりゃ、いけないな。ちょっと様子を--
..言いながらマサトは、勝手に上がった。
.マサト:どうしたんだ?大丈夫か?
..マサトは、カケルの脇に座り込む。
..「どうしたって言うんだ?病院へ連れてってやろうか?車で来てるから」「いや、もういい。大丈夫だ」「本当にか?念のため、行った方がよくないか?」しばらく押し問答が続いた。事実カケルは、体力がかなり回復してきたのを感じていた。
.マサト:クリスマスパーティ中だったのか。
..マサトはテーブルの上を見て、にやと笑った。
.カケル:ところで、なんか、用があって来たんだろ?
.マサト:もしか、一人寂しくしてないか、と思ってさ。今から合コン するから誘いにきたんだけど--寂しくなさそうだな。
..マサトは、言いながらレナを見つめる。
.マサト:さて、じゃ、お邪魔虫は引き上げるぜ。
..マサトが帰って、カケルはようやく体を起こした。<いったい、なんだったんだろう?>体力は、ほぼ回復したと思われる。
.カケル:もう、大丈夫だよ。なんだったのか分らないけど、急に体から力が抜けていったんだ。なんでかなー?--ごめんね、心配させて。
.レ ナ:ううん、でも、ほんとうにもういいの?
.カケル:うん。もういい。もう元通りだ。ごめん、続きをやろ〜!
..さっきは向かい合っていたが、今度は並んで座り改めて乾杯した。
.カケル:そうそう、プレゼントありがとー。
..カケルは、マフラーを巻いた。前に垂らした端に「K+R」が毛糸でかがってある。袋から取り出したレナへのプレゼントは、ピンクのポーチ。
.レ ナ:あら、あの映画の?わぁ、うれしい!
..プレゼントを何にしようか迷っていたとき、会社帰りに映画館の前をとおりかかったカケルは、ポーチを手にしたレナのたのしそうな顔を思い出した。
.レ ナ:ん?、何かはいってる?
..レナはポーチを開けた。綺麗なビロードの小箱が入ってる。レナは、驚いたように取り出しそっと蓋を開いた。きらきらと輝いて、花型のブローチが現れる。レナは、瞳を大きく見開いてしばらく見つめていた。
.レ ナ:いいの?すごく高いんじゃない?ありがとう!
..レナはカケルの頬にChu!と、柔らかい唇でkissした。<いったいカケルは、なんで来たんだ?まさか、本当に合コンに誘いに来たわけじゃないよな。どうして、ぼくのアパートを知っているんだ?----まさか、ぼくたちを付けていた?>
.カケル:喜んでくれれば、うれしいよ。で、----気になってる事がひとつあるから、かたづけてしまいたいんだけど--
.レ ナ:な〜に?
.カケル:さっきの男、マサトって言ってぼくの同級生で、今は〇△会社に勤めているんだ。だから、時々うちの会社へも来てるんだけど----もしかして、ストーカー似てるって事ない?
.レ ナ:えっ?
..レナは天井を見るように上目づかいになり、しばらく考えていた。
.カケル:どうかな?
.レ ナ:う〜ん、どーかなー----でも、たぶん違う気がする。目が、目が違うような----
.カケル:そうか。それならいいんだ。ごめん、いやな事思い出させて。
..ワインが廻ってきたのか、再びカケルの体が気だるくなって来た。その上少し眠気も差してきた。
..
prurururu----
..カケルのケータイが鳴る。電話にでたカケルは、ちょっと話して「すみませんでした」と、切った。
.カケル:忘れてたよ。ケーキを予約してたんだ。もう6時半か、取りにいかなきゃ。
..立とうとしてカケルは、ふらついた。なんだか力が入らない。ケーキ屋が近いことを聞いたレナは、「わたしが行ってくるわ。カケルさんは休んでてね」と立った。カケルはマフラーを差し出した。
.カケル:悪いな。寒から、してったら----?
..レナは、「そうね」と受け取ると首に巻き「すぐだから、待っててね」と出て行った。それが、二人の最後の会話だった。
..カケルは、横になった。<ワインのせいかな?違う気がする>さっきと同じようにどんどん体力が吸い取られていく。腕を持ち挙げるだけが、おっくうだ。<なんか奇病にでも罹ったんだろーか??>

車はB町の明かりを眼下に見下ろす所まで来ている。小雪が少し強くなったようだ。シートを倒して、カケルは目だけで流れる明かりを追っている。
.センド:ここが、あなたのアパートとの最短ポイントです。昼間なら200mさきにアパートが見えるはずですね。
..カケルは、アパートの方角を見た。そこで、同じように身動きできない自分が転がっているはずだ。ただ自分と向こうのカケルの違いは、自分は原因を知っているが、分身(どちらが分身か分らないが)は<へんな病気に罹ったのでは---->と恐れていることだ。<そうだ。確かにあの時恐れていた。この先どうなってしまうのか----と>
.センド:もう少しの辛抱です。急いで離れますからね。
..そのまま進んで行くと、国道はやがてB町へ降りていく。が、1〜2分ほど走った所でセンドーは右折して、より暗い簡易舗装の林道に向かう。車両のすれ違いができないこの林道は、奥の小さな集落に繋がっているのだ。揺られながら奥へと進むに従って、体力が少しづつだが回復していくのが分る。
.センド:お茶、飲まないですか?
..カケルの目の前に、ペットボトルが差し出される。なんだかひどく喉が渇いている。カケルは、黙ってボトルを取ると、ぐいぐいと半分ほど飲んだ。暗闇の行く手は、ライトの範囲だけ浮かび上がった木々がトンネルを作っている。<「事件の真相」に近づいているのか?>

「結婚はイヴでなきゃ!(3)」へ続く









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