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結婚はイヴでなきゃ!(6)





 

星空 いき

Hosizora Iki

















カケルは、決めかねている。<今度は、ヤムチャにある程度くわしい話しをしなければならない----どう言ったもんだろう?---->まず、絶対口外できない事から決めていく。センドーに関わること。マサトをやったのは自分だという事。<この二つを隠して、納得のいく筋書きができないか?>子分たちは、何かを「奪う」ために自分を襲う。何か--は、「3枚の絵」のことだろう。<レコーダーのことは、マサトも知らないはずだ----じゃ、「絵」を描いたのは誰か?--そこがネックだな---->カケルが描いたことは言えない。どうして現場を知ったのか、説明がつかないからだ。さらに、マサトが「絵」を知っているという事は、誰かが見せたという事だ。だれが?いつ?どうやって?<Ummm--どのみち、マサトをやったオレは、もう消滅しただろうけど-->いっそマサトをやったのは自分だと認めれば、筋書きは楽になる。が、いづれ明らかになるアリバイとの齟齬をどうするか?カケルが2人いる事になる。
..決めかねている内にA町駅に着いた。改札を出るとヤムチャが手を挙げた。
.ヤムチ:メシまだだろう?オレもだ。その辺で済ませてしまおう。
..ヤムチャの案内で入った店は、食堂というより居酒屋に近い。座敷は、背の低い衝立で仕切ってある。注文はヤムチャにまかせる。ビールが来てなんとなく乾杯した。
.ヤムチ:それで、マサトはなんでお前を襲うんだ?
.カケル:それは、話しが長くなるんだけど--
..カケルは、レナのことを詳しく話した。
.ヤムチ:Fu--un,そんな事があったのか。でも、マサトがレナちゃんをやった証拠は無いんだろ?
.カケル:それがな----
..カケルは言葉に詰まる。<どの嘘でいくか---->
.カケル:それが、目撃していたという人がいるんだ。
.ヤムチ:へえ〜!?
.カケル:ただ、絶対警察で証言するのは嫌だし、人に知られたくないという事なんだ。
..カケルは絵を取り出す。
.カケル:その条件を守るという約束で、その人と仕上たのがこれさ。
..ヤムチャは、しばらく絵を食い入るように見ていた。その間に「場所はどこだ?」「いつの事だ?」などと質問しカケルが答えた。
.カケル:マサトにはアリバイがあると、警察は言ってる。MAJINで朝まで飲んでた--と。
.ヤムチ:MAJINかー、嘘くさいなー。
.カケル:そうなんだ。初めは信じた警察も、アリバイを疑いだしたようだ。
.ヤムチ:で、マサトが奪おうとしてるのは、この絵のことか?
.カケル:そうだと思う。
.ヤムチ:確かにこんなのが世間に出たら事だな。マサトにこの絵を見せたのか?
.カケル:ああ----
.ヤムチ:ヤツの反応は?
.カケル:かなりあせって、言い訳したよ。突き飛ばしたんじゃない、落ちるのを助けようとしたんだって。
.ヤムチ:ということは、この絵のとおりだと認めた事になるな。
.カケル:そういうこと。
.ヤムチ:じゃ、やっぱりお前はかなり危険な状態に置かれてるぞ。むこうは、必死だろうから。よし、しばらく外出禁止だ!
..もたもたしていられないと、さっさと食事を済ませてヤムチャのアパートへ行った。
..「カケル君のアリバイに問題は無いようですね----」警察署でスネ夫刑事が、話している。 「4時10分頃にスナックに来て7時半まで居ました。途中1度トイレに立ったという事ですけど、5〜6分だし----それに、なぜかひどく飲んで途中から寝てしまった、というのが、参加者やマスターの証言です」チャウチャウ刑事は、聞いているのか、いないのか、疲れた顔で長椅子に横たわっている。「それから、マサト君は意識が戻りました。さっき行ってきましたが、事件については、『歩いていたら、いきなり催涙ガスをかけられ頭を殴られた。とっさにナイフを取り出したが、暗かったし、横からだったので相手を見ていない。眼が痛くてそれどこじゃ無かった』という事で、要するに、犯人については何も情報がない----と」
.ケイジ:それに--カケル君と時々一緒にいる女----あれは、何者なんだ?
..スネ夫刑事は「車の所有者は内閣で、それ以上は、調べようがなかったです。職務質問して免許証を調べますか?」チャウチャウに訊く。
.ケイジ:へ!?----あの女、政府の人間か?職質は止めておけ。身分証明書でも提示されると、却ってヤブヘビになるかもしれん。それが、なんでカケル君とたびたび会ってるんだ?ますます分らん事だらけだな。Uguuu--で、仮に--
..と、チャウチャウ刑事が天井を睨む。
.ケイジ:もし、マサト君が嘘をついてるとしたら、どうなんだ?つまり、襲った犯人を知っているが知らないふりをしてるとしたら----
..スネ夫刑事は、「なんのために?」と不思議そうな顔でチャウチャウを見つめる。「もし隠しているなら----相手を警察に隠しておきたい--?って事ですか?」
.ケイジ:そうだ。相手、犯人がマサト君にとって不利な情報を持っている。それも重大な情報だとすれば、無い事ではない。
..「この事件は、レナ事件と関係があるんですかね?」
.ケイジ:おそらく、いや間違いなく「レナ事件」とこの事件は繋がっている。と言うより、一つの事件なんだよ。つまり「レナ殺人事件」は、まだ進行中なんだ。そう考えれば少しは納得がいく。「レナ事件」を洗い直すぞ!まずマサト君のアリバイからだ。


.ヤムチ:なんだ?そんなに時間が気になるのか?予定でもあるのか?
..ヤムチャに言われて、カケルはケータイを仕舞う。
.カケル:いや、そういう訳じゃないけど--
..カケルは、センドーと行動を共にするようになってから、日時を気にする癖がついてしまった。日に何度も「今日は何日で、今何時」を確認しないと安心できない。 ヤムチャの部屋もカケルの部屋とほぼ同じ構造だ。この部屋へカケルが来たのも随分久しぶりだ。大学の寮生活をしていたヤムチャが、就職のためA町へ越した時一度来たことがある。
.カケル:そういえば、学生の頃つきあってた彼女いたな?いまでも付き合ってんのか?
.ヤムチ:いや、4年になる時終わりにしたよ。
.カケル:そうか。今は?
.ヤムチ:いない。なんか、付き合っていると面倒なこと多くないか?「今度いつ会う」とか、「夕べは何をしてた」とか、「今何を考えてる」とか、いちいち報告を求められてるようで----。
.カケル:たしかに、そういう一面はあるな。
.ヤムチ:それに、やっぱ根本的に男と女は違うな。文系のオレには、生物学的な説明はできないけど、感じ方、生き方が、根源から違う気がして、なんか咬み合わないんだよな。だから、おたがい無用にイラつく事も、けっこう多いし--。
.カケル:それは、分るな。
.ヤムチ:そんなんで、積極的に彼女を作ろうという気にならないんだよ、今んとこ。
..二人ともアルコールが、回ってきた。
.カケル:オレ、明日にでも帰郷しようかと思うんだけど----。
.ヤムチ:そうだな。----まさか、子分たちも実家までは襲わないだろうしな。
.カケル:どうなんだ?実家から帰って来いって言われてないか?
.ヤムチ:言われてるけど、折角休暇に入ったからこっちでやりたい事もあってな。帰っても、何がある訳じゃなし----。
..その後、高校時代のエピソードで笑い転げたりしているうちに深夜になり、どちらからともなく寝込んでしまった。
rururu--rurururu--
..ケータイが鳴ったのは、ほとんど正午だ。1時間ほど前に目覚めたカケルは、TVをぼーっと見ながら<帰郷するしかないな>と、行動予定を考えていた。ヤムチャは、「パンと玉子ならあるぞ」と、目玉焼きを作っている。ケータイに出たカケルは、思わず叫んだ。
.カケル:えっ!、センドーさん!?
..まさか、もう一度センドーと話すことがあるとは、予期していなかった。
.センド:急いでお知らせしたいことが、あります。いまどちらに?
.カケル:A町の友人の部屋にいます。
..会合場所を相談の結果、河川敷が人出もなく距離的にもよさそうだ。
.ヤムチ:出かけるのか?
..小さなテーブルにパンと目玉焼きを並べ、ヤムチャが訊く。
.カケル:ああ、どうしても人に会う用ができた。
.ヤムチ:とにかく、食っていけ。オレも行こうか?
.カケル:サンキュー、一人で大丈夫だよ。まさか昼間に天下の公道で襲ってはこないだろ。
..パンに目玉焼きを挟み塩を振って急いで口へ押し込む。まだパンを咥えたまま身支度をして外へ出る。
.ヤムチ:本当に一人でいいのか?
.カケル:うん、大丈夫だって。いろいろ世話になったな。ありがとう。もしかしたら、このまま帰郷することになるかも。また連絡するよ。
..ありがとうな、と見送るヤムチャに手を上げ、カケルは小走りに駆け出した。河川敷までは10分ほどだ。なぜか初デートに向かうように心が弾む。<けど、話し--て、何んだろう?>いろいろ考えると、いい話しではない気がする。河川敷の駐車場にセンドーの車がある。が、センドーは乗っていない。カケルは桜の大木の陰へ隠れ、尾行者がないか、様子をみる。それらしい者や車はいない。石段を降りて、見渡すと50mほど先に立っている人影がある。<センドーさんだ>一日会わなかっただけだが、ずいぶん懐かしい気がした。
..河川敷には、陽の光りがあふれている。季節はづれの暖かさだ。光る川面の鴨の群れを見ていたセンドーと目が合った。
.センド:結婚しませんか?
..と微笑みかける。
.カケル:え!?--Ф--¶--Ю--§--※--!!
..カケルはしばらく口を開けたままだ。{ Pho-fhaa-- }
.カケル:結婚?
..次の言葉が出ない。
.カケル:結婚----センドーさんとですか?
.センド:まさか!
..センドーは笑い出した。
.センド:もちろん、あなたとレナちゃんです。
.カケル:えっ、えー!
.センド:まあ、掛けましょう。
..遊歩道には、所々木製、鉄製あるいは石のベンチがある。カケルはセンドーに続いて並んで座った。
.センド:いくつか、ご説明しなければなりません。簡単なのからいきます。まず、レナちゃんのストーカーですが、マサトさんがアパートを確かめるために2度つきまとっています。それと、もうしわけないですが、私どもの調査員が2度調査のため尾行させていただいた事が分りました。おそらく「目つきの悪い男」は、調査員だと思います。不快な思いをさせて、ほんとうにごめんなさい。ドジで目つきの悪い調査員は、きつく叱っておきました。申しわけありません。
.カケル:じゃ、ぼくにも----?
.センド:はい。あなたは気づかなかったようですが、やはり調査員がつきました。で、本題ですが----わたしには、お会いした最初から気になっている事がありました。もう一度、24日の5時ころから思い出してください。5時にはどこで、なにをしてましたか?
.カケル:24日?イヴの夕方ですよね。ああ、5時は、レナちゃんと買い物をしてぼくのアパートに着いたころです。
.センド:ええ、そうでしたね。それから料理にとりかかって5時半ころに二人でテーブルについた----そうでしたね?
.カケル:そうです。
.センド:そこからが重要です。
.カケル:で、食べ始めて----そうそう、すぐに体調が悪くなって、どんどん力がぬけていったんだ----
.センド:それでも、がんばってベッドからプレゼントを取ってきた----
.カケル:そうです。
.センド:そこが、どうしても分りませんでした。お話しから推測すると、その時もう一人のあなたが近くに居たと思われます。が、本部にもそんな記録はないのです。それなのに、なぜ?--ずーっとそれが悩みの種でした。今日のあなたの夕方の行動は、98%決定しています。未来が決定するプロセスは、以前にお話ししたとおりです。
..センドーによると----、
..今日、カケルはこの後帰郷の電車に乗る。そして、到着前の夕方、アパートの窓が破られ部屋を荒らされた連絡をチャウチャウから受ける。引き返したカケルは、刑事と部屋を調べレナのバッグが亡くなっているのを知る。
.センド:そして、あなたは決心します。24日にもどろう、そこで結婚して時間軸を分岐させよう!と。
.カケル:そうすれば----24日以降の出来事は、全て消滅してしまう----。
.センド:そういう事です。それで、あなたは、24日の5時にアパートへ向かっています。わたしが先導しました。が、行動を止めてきました。と言うより、待ってもらっています。とりあえず、あなたにこの事をお話ししなければならない、と考えました。
.カケル:----ぼくが----このまま、ここでなにも行動を起こさないでいると、どうなるんですか?
.センド:間違いなく、24日へ行ったあなたは元のあなたと一つになって結婚、という事になるでしょう。非常に強い決意ですから。
.カケル:そして、時間軸が分岐してこちらの世界は消滅する--------
.センド:そうです。
.カケル:すると--どっちにしてもこの世界は消滅する、と言う事ですね。
.センド:はい。嫌なことは、みんな宇宙に吸収され消えてしまいます。もちろん誰の記憶にも残りません。
.カケル:またレナちゃんに会える!--そして、結婚----行きましょう、イヴの夜へ!
..二人を乗せた車は、洞窟へ向かって走り出した。<いまから結婚する?オレが!?>戸惑いとくすぐったさがカケルを包んでいる。言葉にならない奇妙な感情だ。
.カケル:プロポーズの言葉------なんて言えばいいんでしょう?
..くすっとセンドーが笑う。
.センド:ご自分でかんがえてください。
.カケル:やー----困ったなー----センドーさんは、結婚は?
.センド:いいえ。わたしの時代は、結婚という言葉が死語になっているくらい状況がちがいますので、説明がむつかしいのですが。
.カケル:へー----そーなんだ-----
.センド:どちらにしても、言葉じゃなくて、真心だと思いますよ。レナちゃんを愛する心で訴えれば、きっと通じます。
.カケル:もし、断られたら----イヤだっていわれたら----どうしよう----
..aha-ha.センドーは、笑っただけだった。


.センド:これからあなたのアパートへ行きます。
..カケルはケータイを見る。
.カケル:12月24日3時40分。随分早いですね。
.センド:ええ、B町の二人のカケルさんに近づかないために、南へ迂回しますので余裕をみました。----この時間は、なにをしていましたか?
.カケル:えー、レナちゃんと駅から歩いて、ちょうどショッピング・モールに着いたころ--ですね。
..小雪がちらつきクリスマスに浮き立つ街を車はB町へ向かう。
.センド:覚えていますか?前に来たのは、6時05分でした。
.カケル:はい。まるで夢を見た気分です。それで、一つ分らないんですが、----マサトをやったぼくは、消滅したんですね?
.センド:ええ、そうです。
.カケル:それなのに、どうしてぼくの記憶にあるんでしょう?
.センド:出来事が、あまりにも強烈なせいです。弱い記憶はすぐに消えますが、強い記憶はかなり長く残ります。でも、いずれは消滅します。夢には出てくるかもしれませんが。
.カケル:それで、その時間帯が消滅したのなら、マサトが襲われた事実は、なぜ消滅しないんですか?
.センド:ここまでは分りやすいように、時間帯という表現でご説明してきました。つまり、時間帯が主でそれに付随してもろもろの存在がある、という考え方です。ですが、真理は反対なのです。存在物が主で、時間がそれに付随しています。ですから、存在物は、それぞれに固有の時間が付随しています。
.カケル:へ〜----それは人間、いや命のある物だけの事ですか?
.センド:いいえ、宇宙に存在するもの全てが該当します。ただし、時間の長さは、相対的なものなので、一つの基準で全てには通用しませんから、注意が必要です。それで、マサトさんの例ですが、襲ったあなたの時間だけが二重の状態なので、あなただけが消滅しました。
.カケル:なるほどー----
..カケルは脳内を整理するように黙りこんだ。車に揺られていると、カケルに二つの言葉が浮かぶ。
........シュレー..............
..<なんだっけ?>言葉が、脳の中を漂う。
.カケル:ああ--そうか----。
.センド:なにか?
.カケル:シュレーディンガーの猫のナゾが解けた気がします。うまく説明できないけど--。
.センド:なるほど。時間を理解できた証拠ですね。
.カケル:でも、意味ないですね。三日後には、記憶から消えているでしょうから。
..カケルは声をあげて笑った。
.カケル:けど、合体って、どうやればいいんですか?
.センド:なにもむつかしいことはありません。もう一人のカケルさんにただ近づけばいいのです。30m以内に近づくと、離れたくても離れられません。10m以内では、あっという間に強大な力で吸収され合体します。二人の間に壁のような障害物があっても、関係ありません。正確に云えば、時間帯が合流する結果として二人が一人に戻るだけのことです。多少の物理的なショックはあります。いきなりドンと突かれるような感じです。それ以上の苦痛などはありませんので、ご安心ください。
..時間に余裕があるせいか、カケルはセンドーの態度にゆとりを感じる。突然思いついた疑問が、言葉になって出た。
.カケル:センドーさんは、恐竜時代へ行った事があるんですか?
..一瞬驚いたセンドーは、すぐに爆笑した。Bu!--hahaha---
.センド:それ、なんですか!?
..笑いが止まらない。涙を拭いて笑っている。hahaha--fhafafa----.落ち着くのに暫く時間がかかった。
.センド:運転中にあぶないじゃないですか--hahaha--びっくりするような質問をしないでください--haha--
.カケル:すいません。でも、行けるんならうらやましいなーって----
.センド:haha--、やはり、あなたも男の子ですねー、時間旅行で恐竜を思いつくなんて。まるで「ドラえもん」の世界ですねー。
..そしてセンドーは説明した。時間遡行の技術は、センドーの時代でようやく可能になったばかりで、まだ未知の事や学説の分かれることが多く手探り状態だという事、徐々に過去へ遡って開拓していかなければならないので、ようやく明治の初期まで定点を設定できた事--などだ。
.カケル:そーなんですか。
.センド:ですから、まだせいぜい150年くらいまでしか遡れませんよ。1億年はとてもとても・・ですが、テクノロジーというのは、動き始めると加速度的に進化しますので、意外と早いかもしれませんね。
.カケル:じゃ、卑弥呼に会える日も近いかもしれないですね。
.センド:ええ、時間的には。ただし、テクノロジーよりやっかいな問題があります。
.カケル:?--なんですか?
.センド:言葉や習慣の取得です。たとえば、あなたが150年前の青森や鹿児島に行ったと考えてください。おそらく、全く言葉は通じません。現地の人たちの行動も理解できません。つまり、あなたは「宇宙人」かなにかと同じ扱いをされることになれます。
.カケル:へえ〜、センドーさんの時代も今と言葉がちがいますか?
.センド:ちがいますが、取得するために大きなギャップではありません。むしろ、社会常識のほうが理解が困難かもしれません。違う時代で同じ市民として生活していくのは、非常にむつかしいでしょうね。いっそ外国を選んだほうが、なんとかなるかもしれません。
..車はB町駅に近づいた。コンビニに停車したセンドーはケータイのような物を取り出しカーナビに似た画面を見つめている。
.センド:いませんねー。
.カケル:誰が?
.センド:29日から来たカケルさんです。駅で待っているはずなんですが、反応がありません。仕方ないですね。さがしながらあなたのアパートへ行きましょう。元のあなたとレナちゃんは、モールを出てアパートへ向かってるはずですね。
..カケルは時間を確かめる。4時45分。
.カケル:そうです。
.センド:ちょっと遠回りしますよ。
..センドーは時々ナビ画面を確認して、29日のカケルを探しているようだ。
.センド:5時になりました。アパートヘ向かいます。合体予定時刻は、5時25分32秒です。タイミングが重要ですので、時計を見ていてください。
.カケル:もう一人のぼくは?
.センド:見つかりません。----早まって合体してなければいいのですが。
..やがて、ゆっくりとアパートへ近づいた。カケルは、シートを倒す。
.センド:100mに近づいたら、いっきに行きます。 5時25分です。32,31,30-------
..センドーはカウントダウンを開始する。除じょに車のスピードがあがる。
.センド:あと100m、10,9,8,7---
..カケルは硬く眼を閉じた。

カケルは、ベッドの脇で眼を覚ました。いや、眼を覚ました気分だ。よく寝ていたところをいきなりの地震で、叩き起こされたような気がした。<寝ていたはずはない---->寝惚けているのか、混乱している。<何しにここに来たんだっけ?----あ----プレゼントだ>
..ベッドの上を見ると赤いリボンのピンクの紙袋が乗っている。<そうだ!!結婚だ!!>紙袋を取ると、キャンドルの灯りだけの居間に戻り、座り込んでいきなり言った。
.カケル:レナちゃん、結婚しよう!
..レナは、きょとんとカケルを見つめる。
.レ ナ:うん、いつかは、そうなるといいわね。
.カケル:いつかじゃダメなんだ!今直ぐ!
.レ ナ:いま?----hfaahaahaha
..レナは突然笑い出す。
.カケル:いや、これは、冗談じゃなくって----。
..言いながらも、<なんでオレはこんな事言い出したんだ?>と、自問しているカケルがいる。が、考えるより先に言葉が飛び出す。
.カケル:とにかく、今日中に結婚しないとダメなんだ!
..レナは、益々激しく笑い転げる。
.レ ナ:hahaha--aa、どうしたの?ahaha--ありがとう、そう言ってくれるのは、うれしいわよ。でも、いますぐだ、なんて-ahaha--
..Pororoo--
..チャイムが鳴った。
.レ ナ:だれかしら?わたし、出てもいい?
.カケル:ああ。
..レナは立ち上がって部屋の照明を点けドアを開ける。そこには、マサトが立っていた。レナは、どこかで見たことのある人だなと思う。
.マサト:こんばんは。カケルくんいますか?
.カケル:おーい、マサトか。
..カケルは立ち上がる。
.マサト:合コン誘いにきたんだけど、お邪魔だったようだな?
.カケル:車か?
.マサト:そうだけど?----
..カケルは急いでコートを取ると、レナにも促す。
.カケル:レナちゃん、コートを来て!
..レナは、驚いてカケルを見つめる。キャンドルの灯を消し、レナのコートを取ると
.カケル:さ、急いで!
..と、レナの背にコートを掛ける。
.レ ナ:え?
.カケル:マサト、悪いけど送ってくれ!
.マサト:なんだよ?どうしたんだ?
..カケルはレナの腕をとると、急いで部屋を出た。
.レ ナ:どうしたの?どこへ行くの?
..マサトも後に続く。
.マサト:どこへ行くんだよー!
.カケル:近くだ。7,8分だよ。
..カケルの指示で、何回か右左折をして着いた所は町外れのカトリック教会の前だ。駐車場には多くの車が並び、電飾された庭の一番大きな木が明滅して輝いている。
..後になってこの日の事を思い出すと、レナは目眩がして、笑ってしまう。まるで他人の結婚式のビデオを3倍速で見せられているように、あわただしく、なにがなんだか分らないうちに進んでいった。レナを引っ張って教会に飛び込んだカケルは、叫んだ。
.カケル:結婚したいんです!今すぐに!
..教会には大勢の信者が集まって、明日のミサや子供たちの「クリスマス会」の準備をしているところだった。天使の羽を着けた子供たちや合唱練習をしている女性、鋤を持った老人の農夫などが驚いて二人を見つめた。呼ばれた神父が現れ、「今夜は、たてこんでいるので----」と戸惑う。
.カケル:どうしても今夜じゃないとダメなんです。お願いします!
..カケルは必死にくいさがる。やりとりを聞いていた年配の女性が、「神父さま、よろしいじゃありませんか。挙式してあげましょうよ。イヴに結ばれるなんて、これこそ主の御心ですよ」と発言したのが、他の女性たちの同調を引き出した。あちこちから「神父さま、お願いします」「結婚させてあげて--」という声があがり、神父も断れなくなった。「そうですね。そうしますか」神父が決定すると、歓声があがった。「そうよ!衣装部屋に、去年お芝居に使ったお姫様のドレスがあったんじゃない?」「ああ、そうね」レナは女性信者に引っ張られて小部屋に連れていかれると、すぐに純白のドレスに着替えさせられた。「こちら、美容院の先生だから、プロよ」と別の女性が現れ、有無を言わさず、てきぱきとレナの化粧を初める。教会に入ってからのレナは、ただ「え!」「あ、あー」を繰り返すだけだった。天使の子供に先導され礼拝堂に入ると、オルガンが響きわたった。信者たちが着席し拍手でレナは迎えられる。「きれいー!」「ほんとうに、お姫さまみたい」
..祭壇の前で誓いの言葉を宣誓すると、神父が小声で訊いた。「指輪の用意は?」「急いでいたので、まだ----」と答えようと、カケルが口を開いたとき、「代わりの物があります」と、近くから声がした。レナとカケル、そして神父も声の方を見る。真紅のスーツの、誰もが眼を見張る美女がほほえんでいる。参列席の前の方がざわめいた。「きれいな人ねー、女優さんかしら?」「ほんとねー、もしかして花嫁さんのお姉さんじゃないの?--ほら、似てない?」「そう言われれば--」
..スーツの美女は、神父に何か渡した。カケルは神父から光り輝くブローチを受け取る。<なんで、プレゼントのブローチがここに?>神父に催促され、レナの胸にブローチをつける。レナに渡されたのは、マフラーだ。「K+R]のマフラーをカケルの首に巻く。「父と子と聖霊の御名において、二人は夫婦として結ばれました--では、口づけを」オルガンと共に合唱が湧き上がる。カケルはレナのベールを上げると、唇を合わせる。離れるときにレナの頭越しに、拍手している美女と目が合った。<!--センドーさん?!>
..レナの手に、祭壇の花で急いで造られたブーケが渡され、大きな拍手の中を腕を組んで出入口に向かう。ドアー近くでは、マサトが唖然と眺めている。センドーらしき人は、信者のリーダーらしき人となにか相談していたが、外へ出たところで、二人の後ろに来て囁いた。
.センド:お迎えの車が来ますからね。
..「おめでとー!」「おしあわせに!」信者たちの祝福が重な る。<本当にセンドーさんなのか?>カケルは思わず見つめた。<化粧したセンドーさん、初めて見た--へえー、やっぱり美人だったんだー>教会の庭に白い大型のキャデラックが滑り込む。
.センド:わたしから、ささやかなプレゼントです。
..制服の運転手がドアーを開ける。
.センド:お二人の荷物は、ホテルに運んでありますからね。
..レナを先に乗せると、カケルは振り返る。
.カケル:センドーさん--ですよね?----すっかり見間違えました。あまりにも綺麗なんで---
.センド:おめでとうございます。今夜はホテル・リツートのスィートがとってありますので、最愛の人とホワイト・クリスマスをお過ごしください。
..センドーは手を差し出す。カケルはしっかりとその手を握った。
.カケル:ありがとうございました。なんとお礼を言ったらいいのか--ほんとうにお世話になりました。
..乗り込んだ車が、動き出そうとした。
.センド:そうそう、落ち着かれたら、教会の方へお礼のご挨拶をお忘れなく。
..祝福の嵐の中、車は動き始めた。カケルは見送る人たちに頭を下げ手を振った。車内はちょっとした小部屋くらいの広さに感じられる。毛足の長い絨毯と柔らかいソファー、そして頭の上にはシャンデリアが輝いている。レナは、まだぼーっとしたままだ。 「前の棚にシャンパンがございます。よろしかったらお召し上がりください」スピーカーから運転手が案内する。
.レ ナ:----わたし----わたし、結婚したの?
..カケルはうなづいてレナを抱き寄せる。
.カケル:うん、ぼくたちは、夫婦になったんだ。
..じっとカケルを見ているレナの大きな目が、たちまち濡れてきた。uuuu--、レナはカケルの胸へ泣きくづれ、カケルは抱きしめた。

hoo----n
..クラクションを長く響かせ、白いキャデラックが出発を告げる。センドーは、手を振って見送った。
..<レナちゃん、カケルさん、ほんとうにおめでとうございます。わたしもこれで一安心です。たぶん、あなたは気がつかないと思いますが、実は少し嘘をつきました。--だって、どうしてもお二人に結婚していただかないと、わたし、とてもこまるんです。そして--わたしのファミリーネイムはセンドーではありません。カケルさん、あなたと同じ姓なんですよ。ファーストネイムはRenaです。お二人が結婚されないと、未来のわたし、生まれてこないんです。だから、ちょっと職権乱用してしまいました。予想よりも意外に苦労しましたけどね。


..マイ----グラン グラン--------グラン マ アンド パ
..My grand-grand-----grand-ma & pa


..なにはともあれ、末長くおしあわせに----ね。 >








「結婚はイヴでなきゃ!」完







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